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重力ピエロ/伊坂幸太郎 <あらすじ・感想・考察> 声を大にして語られない「静かな正しさ」

読書感想です。今回は伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:重力ピエロ
  • 作者 :伊坂幸太郎
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :496P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 心に残る物語を読みたい
    派手な展開よりも、読後にじんわりと余韻が残るような作品が好きな人にぴったり。静かだけど力強い物語です。

  • 家族の絆や人との関わりをテーマにした話に惹かれる
    兄弟、親子、家族のかたちについて考えさせられるので、そういったテーマに関心がある人にはぐっとくるはずです。

  • 自分の“正義”や“価値観”について考えたい人
    登場人物たちの行動や選択には、簡単に「正しい」と言い切れないものもある。だからこそ「自分ならどうするか?」と自然に問いが浮かびます。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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5
読み応え
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過激表現
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4
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あらすじ

『兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。

引用元:新潮社

感想

ミステリー仕立て

舞台は仙台。街に次々と描かれる謎のグラフィティ(落書き)と、それに興味を持つ兄・泉水と弟・春。

一見なんでもない日常に、奇妙な事件の気配が混じり始めます。

兄弟はその謎を追いながら、家族の過去や“ある出来事”と向き合っていくことになります。

ミステリーの要素はありつつも、犯人探しや事件解決が主軸ではなく、むしろ「人がどう生きていくか」「家族とはなにか」「過去とどう向き合うか」といった、もっと根本的なテーマが丁寧に描かれていく物語です。

魅力的な”会話”

登場人物たちの“会話”が魅力的です。兄の泉水は理屈っぽいが優しく、弟の春は突飛で、しかし芯が強い。

ふたりのやり取りがテンポよく、ところどころ笑えるのに、実はすごく哲学的だったりします。

軽妙な語り口の中に“重い何か”がふわりと差し込まれる瞬間があります。

読んでいるうちに気づかぬうちに心の奥深くへ踏み込まれていくような、不思議な感覚を味わえます。

静かな正しさ

この物語には、声を大にして語られない「静かな正しさ」がある気がします。

声高に正義を叫ぶわけじゃない。でも、大切なことはちゃんと描かれている。

誰かの痛みに寄り添いながら、自分の中の怒りと向き合いながら、それでもなお「生きていくこと」を肯定するような、そんな空気が全体に流れていました。

「自分だったらどうするだろう」と思わずにはいられません。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

ミステリーという形式を借りた家族の物語

 
こよい
春が放火も落書きもやってそうってのは早いうちから想像ついたし、泉水も春の父親を特定してどうにかしようとしていたのはわかりやすかったよね。

ミステリーとしてみると真実は想像の範疇でもの足りない気もするけど、それ以上に家族をテーマにしたドラマが胸に響く作品だったな。

 

 
ロボ
うん、まさにそこが本作の魅力の本質だと思う。

たしかにミステリーとして読むと、読者が途中で気づける範囲に“真実”が収まっていて、ドンデン返しや衝撃の真相みたいなものはない。でも、その代わりに浮かび上がるのが、「家族として、どう過去と向き合って生きていくのか」というすごく人間的なテーマなんだよね。

 

 
こよい
春の行動の背景にある怒りも悲しみも、そして泉水の静かな葛藤も、どれも共感できるし、「こんな兄弟がいたらいいな」と思わせるような絆の描き方がほんとに美しかった。泉水が“正義”を冷静に問い続ける一方で、春は“感情”で動く。それなのに、お互いを否定しない関係がすごく好きだったな。

 

 
undefined
「ミステリーという形式を借りた家族の物語」として読むと、しっくりくるし、その“物足りなさ”こそがむしろリアルというか、胸に残る読後感につながってるのかもね。



黒澤の立ち位置

黒澤が泥棒に入った理由

黒澤は、春とある程度つながりのある人物(=グラフィティや放火の件で協力関係にあるっぽい描写がある)で、春の目的=葛城(=春の実父であり加害者)に対して“何かしようとしている”ことを知っていました。

なので、春が行動に出る前に、もしくはそのサポートとして、葛城に関する情報を探すために侵入した、というのが真相に近いかと思います。

伏線としての黒澤

黒澤は探偵ですが、胡散臭さもあるキャラクターです。彼の言動には常に“裏の目的”がありそうな雰囲気があります。

葛城の件に関しても、「事件として解決」するより、「個人的な落とし前」を優先している春のやり方に、黒澤もある程度賛同していたように見えます。

結局、黒澤って何者?
彼は「物語の中で、法と正義の間を曖昧に歩く存在」として描かれています。

だからこそ、「正義は誰が決めるのか」というテーマをさらに際立たせる存在のように思えます。

黒澤の“泥棒行為”は、ただの偶然や勝手な行動じゃなくて、春の側に立って動いていたという伏線の一部になっています。

一家全体の背景や葛藤を誰よりも知っていた
黒澤は明確に「春と組んでいる」という描写はありませんが、泉水とも接点があり、さらに父親(=重い過去を背負った家族のキーパーソン)からも依頼を受けていたため、この一家全体の背景や葛藤を誰よりも知っていた存在です。

警察のように法の下に動くわけではないが、ただの傍観者でもない。葛城という加害者に対しても、何が正義なのかを冷静に見ていて、時にはそれを“黙認”するような姿勢すら感じられます。

泉水の視点から見える「正義」、春の抱える「怒り」、父親の「贖罪」、そしてその全体像を知っている黒澤の「静かな観察者としての存在」。黒澤は物語を俯瞰して見られる“読者の分身”のような立ち位置にも見えてきます。

家族とは

終盤の父親の台詞にはグッときました。

『おまえは俺に似て、嘘が下手だ』

普通だったら「似てる」というのは、顔や性格が遺伝で、みたいな文脈で使われることが多いですが、この台詞では違います。

一緒に生きてきた時間、家族として育てた記憶、選び取った愛情が、“似てる”って言葉を成立させています。

つまり父親のあの一言は、「血なんて関係ない。お前は俺の息子だ」「俺が育ててきたお前は、ちゃんと俺の一部なんだ」という、静かで力強い肯定のように感じます。

春にとっても、この父親の存在が「家族を信じる理由」であり、それがあるからこそ、あんなに傷ついても、泉水や父と一緒に“まっすぐ”なやり方で向き合おうとしたんだと思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/重力ピエロ

まとめ

以上、伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」の読書感想でした。

派手な展開があるわけではありません。しかしじんわりと心を動かします。静かに目を閉じて余韻に浸りたくなるような一冊でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。