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十戒/夕木春央 <あらすじ・感想・考察> ミステリーなのに「殺人犯を見つけてはならない」

読書感想です。今回は夕木春央さんの「十戒」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:十戒
  • 作者 :夕木春央
  • 出版社:講談社
  • 頁数 :304P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • サスペンスやミステリーが好き
    閉鎖空間で起こる連続殺人、そこに「十の戒律」という異質なルールが加わることで、緊迫感と謎解きの面白さが倍増します。『そして誰もいなくなった』のような孤島サスペンスが好きな人には刺さるはず。

  • 心理描写に興味がある
    「犯人を探してはいけない」という異常なルールのもと、人々がどう行動するのか。集団心理や人間の本性がむき出しになる様子が丁寧に描かれていて、人間観察が好きな人にはたまりません。

  • 『方舟』を読んだ人
    本作は『方舟』の“続編的作品”でありながら、前作を知らなくても楽しめます。また『方舟』を楽しめた方なら間違いなく楽しめます。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。

浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。

引用元:講談社

感想

孤島を舞台にした密室型ミステリー

浪人中の主人公・里英は、父と共に亡き伯父が所有していた枝内島を訪れます。

リゾート施設の開業を目的に集まった9人の関係者たち。

しかし、島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺害され、現場には「殺人犯を見つけてはならない」と記された十の戒律が書かれた紙片が残されていました。

戒律を破れば、島内に仕掛けられた爆弾が起爆し、全員の命が危険に晒されるという状況の中、3日間の緊張と恐怖が始まります。

一気読みできるスピード感

孤島を舞台にした密室型ミステリーでありながら、読者の倫理観や人間性に問いかける作品です。

読みごたえがありつつもスピード感もあるので、普段あまり読書しない人でも一気読みできるタイプの作品です。

本作は『方舟』の続編として位置づけられていますが、単独でも楽しめる構成となっています。

「犯人を見つけてはならない」

この作品は、単なる推理小説の枠を超え、人間の本質や集団心理を鋭く描いています。

「犯人を見つけてはならない」という逆説的なルールが肝となります。

ミステリーとしてそのルールでどう進めていくのかと予想がしづらく、登場人物たちとその状況を共有しているような緊張感があり引き込まれていきます。

圧巻のストーリーテリング

特に印象的だったのはやはり、物語の終盤で明かされる真相と、それに至るまでの伏線の巧妙さです。

読者の予想を裏切る展開ながらも、納得のいく結末に導かれる構成は圧巻です。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

『方舟』の内容にも触れますので、『方舟』を未読の方もご注意ください。

両作をこれから読もうと思っている方は、両作を読んでからご覧ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

終わり方の不穏さ

理英と綾川の「心理戦」や「共犯関係の危うさ」に焦点を当てると、別のスリルも見えてくるように思います。

理英の立ち回り

理英は物語の途中で綾川が犯人であることに気づきながらも、それを明かさず、あくまで「真相を伏せたまま」脱出することを選びます。

これは冷静かつ計算高い選択で、下手に告発して綾川に反撃されるより、「知っているけど黙っている」ことで保身を図っています。

つまり、理英は綾川の「人を殺せる人間性」を完全に理解していて、共犯的な立場でいながらも、綾川の本質を警戒しています。

「じゃあ、さよなら」のセリフ
『方舟』の最後と同じセリフを繰り返すことで、「ループ」や「再来」を印象づけているように感じます。

『方舟』の展開を知っていると彼女の頭の回転の速さや特性も知っているため、あの一言には、再び“あの時”と同じような状況に戻ってしまったこと、そして「また消しにかかるかもしれない」という不穏な予兆が詰まっているように感じてしまいます。

綾川にとって理英は「秘密を知っている、でもいつ暴露するかわからない存在」であり、だからこそ最後の台詞の裏に「次はあなたの番かもしれない」という緊張感が漂っています。

理英はその後無事でいられるのでしょうか?

方舟とのつながり

それがこの『十戒』の最大の仕掛けであり、驚きのポイントかなと思います。

真犯人は『方舟』の犯人と同一人物だったと明かされたとき、背筋がゾッとすると同時に、「ああ、やっぱり」と思わせる伏線の張り方も絶妙でした。

最後の最後に綾川=麻衣であるという情報が詰め込まれていました。
・結婚している
・夫は行方不明、それを気にかけていない様子(方舟の結末より)
・勝手に人を好きになって、期待して、それでがっかりすることが多い(方舟での展開)
・「じゃあ、さよなら」

最後まで名前が出てこないことで、読者に「犯人として見る」以外の角度を与えない演出もニクいなと思いました。前作を読んでた人ほど「あれ? これってもしかして…」と途中で気づくかどうかのスリルもありました。

両作品に共通するのは、犯人が「生き延びるため」に他者を犠牲にするという点です。

どちらの作品でも、犯人が「最初からそうするつもりだった」わけではなく、ある偶然の流れで「選ばれてしまった」立場になり、そこで“自分が生きる”という選択をした、というのが肝だと思います。

共通点の整理

・偶然性
→ 自分の意志で「殺そう」と最初から決めていたわけではなく、流れの中で“選択せざるを得なくなった”。

・保身が最優先
→ その状況で「他者を犠牲にすれば自分は生きられる」と気づいた瞬間にその道を選ぶ。また、瞬時に精度の高い計画を検討、実行する。

・倫理や正義の言い訳
→ 後付けで「これはこういうルールだった」「仕方のないことだった」と思い込むことで、自己の行動を正当化しようとする。

この「偶然→選択→正当化」という流れは、人間の極限状態のリアルを描いていて、だからこそ読者としても「自分だったらどうしたか?」と考えざるを得ません。単なるサイコサスペンスではなく、“極限の道徳”に向き合わされる作品でもあるように思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/十戒

まとめ

以上、夕木春央さんの「十戒」の読書感想でした。

ミステリーと心理描写が絶妙に融合した作品であり、最後の最後まで引き込まれました。極限状態に置かれた人間の行動や心理を描くことで、私たち自身の価値観や倫理観を問い直すきっかけを与えてくれます。ミステリー好きは必読の一冊です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。