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オーデュボンの祈り/伊坂幸太郎 <あらすじ・感想・考察> 「喋るカカシ」が殺される?伊坂幸太郎さんのデビュー作

読書感想です。今回は伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:オーデュボンの祈り
  • 作者 :伊坂幸太郎
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :480P

こんな人におすすめ

 
こよい
  •  
  • “異世界感”を味わいたい
    地図にない島、喋るカカシ、外界とは違う価値観りそんな不思議な世界観に浸かれます。ファンタジーすぎず、でも現実とも違う、その絶妙な距離感が魅力です。

  • ミステリーや謎解きが好き
    物語は「なぜ未来を予知できるカカシが殺されたのか?」という謎を軸に展開します。ファンタジー要素とミステリー要素の組み合わせが新鮮です。

  • 社会の「当たり前」に違和感を感じる
    作中では“正しさ”や“普通”というものが何度も問い直されます。少し哲学的なテーマが刺さるかもしれません。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?

引用元:新潮社

感想

不思議な島

コンビニ強盗で警察に追われていた伊藤は、気がつくと“荻島”という地図にない不思議な島にいた。

そこは外界と遮断され、独自のルールと価値観が支配する場所。そして、この島で伊藤は「喋るカカシ」と出会います。

ファンタジーな世界観で繰り広げられる物語です。ファンタジーな世界観の中で、描かれる物語はミステリーのようでもあり、社会風刺のようでもあり、ジャンルに一言でおさまりません。

伊坂幸太郎さんのデビュー作

本作は伊坂幸太郎さんのデビュー作です。

デビュー作ということは感じさせないクオリティで、世界観がしっかりしており、登場人物の会話も独特でテンポが良くて、スッと読み進めることが出来ます。

ボリュームや読みやすさ

■ ボリューム
ページ数はやや多めというボリュームです。ずっしり長くはありませんが、サクッと読めるほど軽くもありません。

■ 読みやすさ:
軽妙な会話文が多く、テンポよく読むことができます。難しい漢字や言い回しも少なく、クセのない文章です。ファンタジー要素はあるけど、世界観の説明もわかりやすく、また登場人物も個性的で覚えやすいです。

とはいえ、「喋るカカシ」とか「未来が見える」みたいな非現実的な設定が出てくるので、完全にリアルな物語が好きな人には、ちょっと戸惑うかもしれません。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

カカシは何故死んだのか

■ 未来が見える=人の不幸を見続ける存在
優午は、未来を予知することができました。しかしそれは、希望だけではなく、避けられない悲劇や死、裏切りや絶望も見えてしまうということでした。

たとえば、「この人は〇月〇日に死ぬ」「この人は誰かを傷つける」「この選択は破滅を招く」みたいなことを、ずっと見続けてきたとしたら、
→ それを知っても、変えられない。
→ 知らせたところで、選択するのは他人。
→ だから結局、未来を見通せる自分がいても、誰も救えない。

そう思ったとしても、おかしくありません。

■ 存在自体が“重荷”になる感覚
自分が未来を見えるせいで、みんながそれに依存する。「優午が言うなら正しい」「優午が止めたからやめる」それは一見ありがたがられてるようでいて、人から“考える自由”を奪っているとも言えます。

しかも、自分がいれば未来の不幸を知ってしまい、
自分がいれば人は自分で選べなくなる。そんなふうに感じたら、
→ 「自分がいない方がいいんじゃないか」
→ 「自分が消えることで、ようやく誰かが自由になれるんじゃないか」

そんなふうに思ってもおかしくありません。

■ 優午の死は、諦めではなく“静かな絶望”だったのかもしれない
だからもし、優午が未来の不幸ばかりを見てきて、その度に「何もできない自分」に絶望していたなら、彼の死は“祈り”なんかじゃなくて、救われることのない孤独の果てだったとも言えます。

でもその絶望の中で、唯一「何かを変えられるかもしれない」と思った存在が伊藤だったのかもしれません。つまり、優午は、自分の存在が人の未来を不自由にしていると感じ、静かに絶望していた。けれど、未来の見えない伊藤に何かを託すことで、“自分では選べなかった希望”を願った。という、救いと絶望が両方入り混じった死とも解釈できるように思います。

伊藤がコンビニ強盗した理由

伊藤がコンビニ強盗をした理由は、「なんとなく」ということでした。これは重要なポイントでもあります。

■ なんとなく犯罪に手を染めた
伊藤は、特に切羽詰まっていたわけでもなく、明確な動機や恨みがあったわけでもなく、ただ「退屈だったから」「なんとなく生きていたから」みたいな感じで、流されるように強盗をしてしまいます。

その場の勢い、ノリ、無気力さ——そういうものが重なって、犯罪に手を染めた。彼自身もその理由をきちんと説明できないまま、「気がついたらやってた」って感覚に近いです。

■ 物語的に意味がある“動機の薄さ”
この「理由のなさ」は、物語のテーマと深く関わっているように思います。

荻島では、「正しいかどうか」や「理由があるかどうか」で物事を測る価値観から離れた世界が描かれます。伊藤が“理由のない強盗”をしていたことで、彼自身が「正しさ」や「意味のある行動」とは縁遠い存在であることが浮き彫りになります。でも、その伊藤だからこそ、カカシの優午や島の人々と関わる中で少しずつ「自分の意志」や「選ぶこと」に目覚めていきます。

つまり、「なぜ強盗したのか?」という問いに明確な答えがないのが逆に、この物語の“始まり”にふさわしかったのかもしれません。

城山と桜

■城山の二面性
城山は、外見上は「品行方正で気持ちの良い好青年」であり、警察官としての立場を利用して法の目をかいくぐっていました。

しかし、裏では人を痛めつけることを趣味とするサディストであり、その二面性が物語に緊張感を与えていました 。

城山は、物語において「外部からの脅威」として、また「正義と悪の境界を曖昧にする存在」として重要な役割であったように思います。

にしても残酷な城山の行動には寒気が止まりませんでした。

■ 桜は「秩序」と「罰」の象徴
荻島は、普通の法や道徳が通用しない「独自の論理」で成り立ってる島でした。

その中で、誰が悪いかを判断し、裁く役を担っているのが桜です。

・誰かが掟を破ったら、桜が処刑する
・その判断に、誰も逆らえない

感情でも論理でもなく、あくまで“島の理”で動いている。つまり、「外部の価値観」を持ち込む者や、「調和を壊す者」を排除する、島にとっての“免疫システム”みたいな存在のように見えます。島にとって圧倒的な脅威に思われた城山をあっさりと消してしまうところは、よくやったと清々しさもありながら、島の異質さが際立った瞬間でもあったように思いました。

物語全体に漂う“不気味さ”とか“異質さ”を支えていたのが、まさに桜だったと思います。もし桜がいなかったら、この話はもっと人間的で、生ぬるくなってたかもしれません。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/オーデュボンの祈り

まとめ

以上、伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」の読書感想でした。

ファンタジーな世界観の中で、描かれる物語はミステリーのようでもあり、社会風刺のようでもあり、ジャンルに一言でおさまらない一冊です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。