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ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎 <あらすじ・感想・考察> 圧倒的な存在に包囲される恐怖。どう切り抜ける?

読書感想です。今回は伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」です。

第5回本屋大賞、第21回 山本周五郎賞受賞作品です。映画化などもされている有名作品ですね。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:ゴールデンスランバー
  • 作者 :伊坂幸太郎
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :704P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • スピード感ある逃走劇が好き

  • 伏線回収にニヤリとしたい

  • 人間ドラマや友情ものが好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない──。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

引用元:新潮社

感想

首相暗殺事件をめぐる

物語の舞台は仙台。主人公・青柳雅春は、ごく普通の元宅配ドライバー。そんな彼がある日突然、首相暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡を余儀なくされます。

スリルだけではない逃走劇

設定だけを聞くと派手な逃走劇を想像しがちですか、この物語が魅力的なのは、スリルだけでなく“人とのつながり”が丁寧に描かれているところだと思います。

青柳はただの普通の人です。しかし、過去に誰かを思いやったこと、ささやかな優しさを積み重ねてきたことが、逃亡の途中で少しずつ効いてきます。

誰かの記憶の中の自分が、思いもよらない形で自分を救う展開に胸が熱くなります。

圧倒的な見えない存在

この物語には、最初から最後まで“説明のつかない圧力”のようなものが常にまとわりついています。

はっきりとした姿を見せないまま、じわじわと追いつめてくるような恐怖。

誰が敵で、誰が味方かもわからないなかで、主人公は逃げることしかできない。

その見えない圧倒的な存在感が、ただの逃亡劇ではない重みと緊張感を物語に与えているように感じました。

読みやすく面白い構成

ずっしりとした一冊ではありますが、内容の濃さにページ数を忘れるほどでした。

テンポの良い展開にぐいぐい引き込まれます。

時系列が少し前後したり、一見関係なさそうなエピソードが後で繋がる構成だったりするので、最初のうちは「ん?」となる部分もあるかもしれませんが、それが面白い要素になっています。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

根本的な謎は明かされない

物語を読み終えたあと、どうしても心に残ったのは、「結局、なぜ青柳が選ばれたのか」「この陰謀の黒幕は誰だったのか」という根本的な謎が明かされないまま、物語が終わるということでした。

あれだけ壮大な事件に巻き込まれ、命をかけて逃げ続けたというのに、その理由すらはっきりしない。

その“もやもや”は確かにありますが、同時に、現実の社会でもたいていの真相は闇の中だったりするような、この作品の最大のリアリティでもあるように感じました。

青柳が選ばれた理由についても、完全には語られませんが、「目立たないけどある程度“いい人”だった」「過去にTVで“いい人風”に取り上げられてた」っていうのが、世間が納得しやすい“犯人像”になったってのが皮肉です…。

正しさよりも納得のしやすさ、見た目のストーリーの整合性の方が人々に信じられやすい。青柳はまさに、そういう「都合のいい犯人像」に仕立て上げられてしまった一人だったということですね。

青柳は何を語ろうとしたのか

終盤、青柳が自ら姿を現し、世間に向けて何かを語ろうとする場面がありました。計画は失敗し、真相はまた語られないまま花火の中に紛れて彼は姿を消します。

そこで私が気になったのは、もし青柳があのままテレビに出られていたら、何を話したんだろう?ということです。

彼が話そうとしていたのは、「自分は無実であること」もあるのかもしれませんが、捕まることは覚悟の上のようにも見えたので、それよりももっと広い意味での“仕組まれた社会の怖さ”や“人が簡単に信じたいものを信じてしまう怖さ”を伝え、世間に少しでも疑いを持たせようとしたのかなと想像できます。それをどのような言葉で表現するつもりだったのかはとても気になります。

ただ、あのとき彼がそれを話せていたとしても、メディアがそれを「真実」として流したかどうかは怪しいです。むしろまた違う角度から編集されて「やっぱり怪しい発言」って扱われてたかもしれません。

だからこそ、花火の中をすり抜けて逃げたあのシーンは、「本当のことを語る場」は得られませんでしたが、それでも彼は“物語の中では確かに生き延びた”っていう象徴的な瞬間だった気がします。

青柳があの時語ろうとした言葉は、明言されないままで正解だったのかもしれないとも思えます。読者それぞれが「自分なら何を言うだろう」と考える余白になっているように思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/ゴールデンスランバー

まとめ

以上、伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」の読書感想でした。

この物語は「逃亡劇」という言葉だけでは語りきれないと感じました。信じることの強さや、誰かの記憶に残ることの意味を考えさせてくれる一冊でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。