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【初心者向け】ミステリー小説の基本指針と頻出用語を調べてみる

小説における人気なジャンルの一つであるミステリー小説(推理小説や探偵小説とも呼ばれます)。

その中の多くの名作たちは我々読者に様々な形で驚きと感動を与えてくれます。緻密に設計されたトリック、論理的で痛快な推理、魅力的な登場人物、それらを生み出す作者の方々には尊敬の念に堪えません。

そんなミステリー小説をいくらか読んでいくと、内容はもちろん作品による個性で成り立っているものの、一定のフォーマットがあるような感覚も受けます。先人に倣い作り上げられてきたミステリー小説というジャンルの歴史によるものと考えられます。

実際、ミステリー小説を作るうえでの基本指針みたいなものが過去に作り出されています。今回はその代表的な基本指針の内容と、その中に出てくるミステリー小説界における頻出用語注釈で説明を記載しています)についてご紹介します。

ノックスの十戒

ロナルド・ノックスが1928年に発表した、推理小説を書く際のルールです。この後紹介する「ヴァン・ダインの二十則」と並んでミステリー小説の基本指針と言われています。

「ノックスの十戒」の内容
  1. 犯人は、物語の当初に登場していなければならない。ただしその心の動きが読者に読みとれている人物であってはならない。
  2. 探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。
  3. 犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
  4. 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。
  5. 主要人物として「中国人1」を登場させてはならない。
  6. 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
  7. 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。
  8. 探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
  9. ワトスン役2は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。また、その知能は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。
  10. 双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない。

ヴァン・ダインの二十則

推理小説家S・S・ヴァン・ダインが1936年に発表した、推理小説を書く上での20の規則です。前に紹介した介する「ノックスの十戒」と並んでミステリー小説の基本指針と言われています。

「ヴァン・ダインの二十則」の内容
  1. 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
  2. 作中の人物が仕掛けるトリック3以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
  3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
  4. 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。
  5. 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
  6. 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
  7. 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
  8. 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
  9. 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。
  10. 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。
  11. 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
  12. いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
  13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
  14. 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
  15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
  16. 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
  17. プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
  18. 事件の真相を事故死や自殺で片付けてはいけない。
  19. 犯罪の動機は個人的なものが良い。
  20. 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
    • 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
    • インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
    • 指紋の偽造トリック
    • 替え玉によるアリバイ4工作
    • 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
    • 双子の替え玉トリック
    • 皮下注射や即死する毒薬の使用
    • 警官が踏み込んだ後での密室殺人
    • 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
    • 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

補足とまとめ

見ていただいてわかる通り、これらは「読者も推理にフェアに参加できること」のために作品を作るうえで守るべきとされるルールみたいなものです。共通する内容も多くありますね。ただし、これらのルールを守ったからといって面白いということでもなく、また守っていなくても評価されている作品というのも多数あります。あくまで基本指針であるということです。

どちらも現代でも考え方としては違和感なく受け取れます。一部は時代を感じる表現もありますが、今後も変わることのない基礎として成り立っているように見えます。

もちろんミステリー小説を構成するのはこれだけの要素ではありません。例えば、フーダニット5ハウダニット6ホワイダニット7のような物語構造など。これらのような、読者に対してフェアであることや面白い物語構造など様々なことを計算して作品を成立させていると思うと、その製作過程は想像できないほどです。より一層、作者へのリスペクトが高まりますね。

読者側としてもこういった歴史的背景みたいなことも頭の片隅にあると、作品を読んだときになんとなくモヤっと感じるとか、すごくスッキリしたと感じるようなときの理由のヒントになるかもしれません。


いくつかのミステリー小説について感想記事がありますので、良ければそちらも併せてご覧ください。

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