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凍りのくじら/辻村深月 -感想- 「少し複雑」な人の心と人間模様

読書感想です。今回は辻村深月さんの「凍りのくじら」です。
講談社文庫が紹介している辻村ワールドすごろくだと4作品目に当たります。「スロウハイツの神様」の次もしくはその前をこの作品として紹介しているところもあったりします。

↓「スロウハイツの神様」の記事に辻村ワールドすごろくのことに少し触れていますので良ければそちらもご覧ください。
スロウハイツの神様/辻村深月 -感想- 緻密に描かれる人間模様と伏線

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:凍りのくじら
  • 作者 :辻村深月
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :576P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 少し暗めの雰囲気ながら救いのある物語が読みたい
  • 人物の心情が丁寧に描かれた作品が読みたい
  • ドラえもんが好き
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
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3
4
5
読み応え
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4
5
過激表現
1
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3
4
5

あらすじ

『藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

暗めな雰囲気の作品です。本自体が分厚くボリュームがあるように思いますが、読み始めるとそんなことを感じさせずすらすら進んで行きます。辻村深月さん作品は文章が読みやすいですよね。あとこの作品は一冊で成り立っているストーリーではあるものの、目次の区切り方が特徴的であるため短編を次々読むような感覚で読めた気がします。

目次がドラえもんの秘密道具の名前になっており、それぞれの章でその秘密道具をテーマとした物語が描かれます。主人公の理帆子はドラえもん好き。もちろんその秘密道具自体が登場するわけではありませんが、様々な人間模様の中に隠れている秘密道具に似た何かが見えてきます。私はドラえもんについては代表的な話を知っている程度で詳しくはありませんがこの作品を読む上では支障はありません。ただドラえもんを読んでみたくなりました。

ストーリーは感動的です。終盤の劇的な展開には引き込まれていつの間にか時間を忘れて読み進めていました。ただ、私は物語の展開以上に理帆子の心が出来事を受けて揺らぎ、変化していく様子に心を打たれました。理帆子の心情が細かく描かれており、話が進むにつれて変化する心情とともに、同じようにあったはずの周りの景色も違って見える様子が神秘的にも思えました。癖のある登場人物に腹立たしさを覚える部分も多々ありましたが、そのような明暗があることもこの作品の特徴の一つかと思います。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

語り手が理帆子であるためその描かれる心情も理帆子の主観的な内容になっています。読者はそれを客観的に読むことになりますが、独特な思考を持つ理帆子に少し違和感を持ち感情移入できないという方がいるかもしれません。私はそうでした。
ただそれはこの作品の特徴であると私は思いました。主人公に感情移入して読むのではなくあくまで客観的に、他の登場人物も含めて俯瞰して理帆子を見ることで、自分のことさえ正確に理解できない人間の心の複雑さを改めて知ったように思います。自分も理帆子と同じように、自分を、他を、歪んだ見方をしてしまっていないでしょうか。そんな風にハッとさせられるような場面がいくつもありました。

別所さんが理帆子に向けた言葉で印象的だった言葉を引用します。
「人間の脈絡のなさを舐めない方がいい」
「どうしてそうなるのかわからないという原理、矛盾だらけの思考で人はあっさりと動くよ」

理帆子はそれを軽視していたが故に重大な事件に巻き込まれるわけですが、私自身も現実で思い当たる節があります。他人が何を考えているかなんてわからない上に、自分だったらあり得ない思考回路で行動する人がいる。作中の出来事は極端ですが近いことは起こりうるもので、人と関わる上で知っておく必要がある言葉だなと思いました。

多恵さんと郁也との誕生日会はこの作品唯一といっても過言ではない平穏なシーンでした。そこまでの暗さとのギャップでものすごく安心するような気持ちになりました。郁也がドビュッシーの「沈める寺」をピアノで弾くシーンがあります。この曲は私は知らなかったためそのシーンを読んだタイミングで聴いてみました。ピアノ独奏のための楽曲だそうです。重厚な雰囲気でした。郁也の歳に似合わないように思います。郁也と理帆子の内面を表すような曲として選ばれたのかなと感じました。
小説の中にこのように楽曲やその他芸術作品が登場することがしばしばあります。そのものを知らないケースが多々ありますが、知って読むと印象が変わって見えることもあります。そんなことがある度に色んな知識があれば日々見える景色が変わるんだろうなと感じます。簡単にたくさんの知識が得られる秘密道具を誰か出してくれませんか?

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/凍りのくじら

まとめ

以上、辻村深月さんの「凍りのくじら」の読書感想でした。
個人的には「スロウハイツの神様」以上に好みな作品でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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