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ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ -感想- 美しい自然描写に息を呑む。湿地で孤独に生きる少女の物語。

読書感想です。今回はディーリア・オーエンズさんの「ザリガニの鳴くところ」です。

2021年本屋大賞 翻訳小説部門第1位
全世界1500万部突破
2019年・2020年アメリカで一番売れた小説

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:ザリガニの鳴くところ
  • 作者 :ディーリア・オーエンズ
  • 出版社:早川書房(ハヤカワ文庫NV)
  • 頁数 :624P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 自然文学、ミステリー、社会風刺…と多様な楽しみ方ができる小説を読みたい
  • 自然の力を感じるような文学作品が読みたい
  • 映画化もされた世界的に有名な作品を読みたい

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。』

引用元:早川書房

感想

孤独を余儀なくされた少女の物語
美しい自然描写と複雑な人間関係、孤独や成長のテーマが重層的に描かれています。アメリカ南部の湿地帯を舞台に、主人公の少女カイアの生い立ちや成長、孤立の物語を中心に展開されます。

カイアは色々あってほぼ独りで湿地帯で生き延びることを余儀なくされます(色々ある部分もきちんと描かれます)。この孤独感や自然とのつながりが、物語全体を通じて重要なテーマとして流れています。

自然を描く文学
本作の特徴的な要素の大きな一つはカイアが過ごす周辺の自然の描写です。様々な植物や動物の生態と人間の行動との対比が印象的です。人間も自然が作り出す大きな流れの中で生きる一種に過ぎないのかもしれません。カイアの人生を通して、自身が悩んでいることが小さく感じるような、今まであまり考えたことのない視点で人生を見つめ直すきっかけになりうるように私は感じました。

ミステリーとしての一面
この作品はミステリーとしても楽しめる側面があります。カイアが若い男性の死に関わった疑いをかけられ、その過去や周囲の人々との関係が徐々に明らかになり交差していく構成が巧妙です。ミステリーとして期待して読む作品ではないと私は思いますが、その謎が興味を引きつける要素の一つになっています。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

カイアへの共感
カイアは馴染みやすい感性を持っていて共感しやすかったです。自身の力で強く生きたというより、弱さを持ちながらも懸命に生きるしかなかったというカイア。そういう環境の中での考え方の変化などがとても自然に感じられました。

カイアの物語としては様々なことがうまく噛み合って進んでおり都合良くも見えます。ただ、家族離散で孤独に生きる状況なわりに前向きな展開も多かったことは、読んでいく中で気持ちが落ち込みすぎなくて良かったと私は思います。

結末には色々な感想が生まれそうですが、私としては”自然”な流れであるように思え、またカイアへの共感からスッと受け入れられました。チェイスの行動は許せないので、誰が犯人であろうと同情してしまうと思います。

登場人物たちに対する様々な感情
家族離散の過程はあまりにカイアが不憫すぎて苦しかったです。そんな中、父との僅かな共生の時間は救いでした。この辺りで物語の展開としてただ暗いままじゃないんだなと安心しました。

テイトについてはそれこそカイアが思っていたように「何してくれてんの?」という印象が長いこと拭えませんでした。ただその辺りのテイトの弱さもリアリティがあって共感は出来ます。カイアと結ばれてくれて心底ほっとしました。

ジャンピン一家は唯一の純粋な良心でした。ジャンピンが亡くなったと知る場面は作中でもっとも泣けたと言っても過言ではありません。

人間も自然の中に生きている
動物の生態と人間の行動の共通点みたいなことが繰り返し描かれているところが私にとっては新しい視点でした。

自分を何かに譲り渡しながら生きることは自分を不自然に変えていくようなことのように思いがちですが、実はそれも自然なことであり、人間はそうして過酷な自然を生き延びてきたのかもしれません。カイアの人生を通して自分の在り方について新たな視点が得られたように思います。

ミステリーとしては
チェイスの事件としての結末はわりとシンプルで拍子抜けしたことは否めません。ただ、カイアの過去と事件発生後が交互に描かれ、だんだんと時間が近付いていく過程はとてもワクワクしました。法廷の場面や判決が下される場面はとても緊張感がありました。全体の構成を作り出し、物語に引きつけるという意味ではミステリー要素は重要な役割を果たしていたように思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/ザリガニの鳴くところ

まとめ

以上、ディーリア・オーエンズさんの「ザリガニの鳴くところ」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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