当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―/リリー・フランキー <あらすじ・感想・考察>

読書感想です。今回はリリー・フランキーさんの「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―」です。

2006年本屋大賞受賞作品です。映画化などもされている有名作品ですね。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―
  • 作者 :リリー・フランキー
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :528P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 親と自分の関係についてふと考える瞬間がある

  • 一人暮らしや地元を離れて生活している人

  • ノンフィクションやエッセイ寄りの文章が好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『オカン。ボクの一番大切な人。ボクのために自分の人生を生きた人──。四歳のときにオトンと別居、筑豊の小さな炭鉱町で、ボクとオカンは一緒に暮らした。やがてボクは上京し、東京でボロボロの日々。還暦を過ぎたオカンは、ひとりガンと闘っていた。「東京でまた一緒に住もうか?」。ボクが一番恐れていたことが、ぐるぐる近づいて来る──。大切な人との記憶、喪失の悲しみを綴った傑作。

引用元:新潮社

感想

自伝的小説

本作は、作者であるリリー・フランキーさん自身の半生をもとにした自伝的小説です。

「ボク」と「オカン」の深い絆を中心に、福岡から東京へ上京するまでの成長、芸術の世界での挫折や挑戦、そして病に倒れた母との時間が描かれます。

この本を読み終えたとき、しばらく胸の奥がじんわりと温かく、そして少し苦しくなりました。

一言でいえば「親の愛情って、こんなにも深いものだったんだ」と改めて気づかせてくれる作品です。

飾り気がない魅力

文体は飾り気がなく、むしろちょっと荒削りな感じさえあります。

それが逆に、気取ってない、真っすぐな気持ちとして伝わってきました。

どこかユーモアもあって、でもその中に強い感情が込められています。

「テクニックじゃなくて心で書かれた文章」が心にとても残ります。

“親の愛”という普遍的テーマが、心に刺さる

この小説が描いているのは、特別な人生じゃなくてどこにでもある親子の物語です。

しかしそれが、リリー・フランキーさんの言葉で語られると、不思議と「自分のこと」のように感じられます。

とくに「母の愛」が真っすぐ描かれています。「オカン」がどんなふうに「ボク」を育て、支えてきたのか。

派手ではないけれど、どこまでも優しく、静かに強い母親の姿が、読む人の心にじわじわ染み込んできます。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

オカンとぼく

豪華なストーリーや奇抜な展開があるわけではありませんが、読み終えたときに胸に残るのは、「親がいてくれて、自分がいた」という当たり前すぎて見逃しがちな事実への感謝の気持ちでした。

オカンのことが頭にありながらも自堕落な振る舞いをしてしまうというぼくの成長過程には、イラッとさせられる部分もありましたが、形は違えど自身の過去を見ているような気持ちにもなりました。

東京での看病、そして別れまでの描写には、静かで深い愛がありました。ボクは大人になりきれていない自分を責めることもありますが、それでも最期までオカンに寄り添い、オカンもそんなボクを全力で守ろうとします。

病室の場面、二人で過ごす何気ない日々の描写がとにかく丁寧で、何でもない日々の中に、大切なものが詰まっていることに気づかされます。

誰の人生にもきっと、似たような場面があるかと思います。親とぶつかったこと、すれ違ったこと、でもふとしたときに感じる温かさ。そんな記憶を静かに呼び起こし、読む人それぞれの「自分の物語」として再構築させてくれる力があるように感じました。

オカンとオトン

この小説で特に印象的だったのは、オカンとオトンの関係です。

冒頭ではすでに離れて暮らしており、物語の中でも一緒に暮らすことはありません。しかし、その距離の中には、たしかに「夫婦としての絆」のようなものが残っていたように思えました。

オカンが義母とうまくいかず、やむを得ずオトンと離れて暮らすようになったという背景がオトンから語られた場面では、何とも言えない嬉しさみたいなものを感じました。

一方的な断絶ではなかったことがわかり、お互いに気どりあってしまう姿や、言葉にしない、できないというような、そこまでの2人の関係性がまた違った形に見えました。

本屋大賞受賞作として

2020年前後の本屋大賞は、たとえば『成瀬は信じた道をいく』や『汝、星のごとく』のような、等身大の登場人物たちの心の揺れや、社会との関わりに寄り添う物語が多く、物語としての完成度や没入感が重視され、また希望を感じさせてくれるようなエンディングや、読後感の良さもポイントになっているように感じます。

それに比べると本作は、すごくパーソナルで、しかも悲しみや後悔みたいな“感情の重さ”をそのまま渡してくる小説です。

文学というより手紙とか追悼文に近い空気感があります。傾向の違いから本屋大賞の変化を感じます。

ただ、この小説が持つ魅力は時代に関係なく、不変です。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―

まとめ

以上、リリー・フランキーさんの「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―」の読書感想でした。

難しい言葉や派手な展開はありません。しかし、その分リアルで、真っすぐで、心にまっすぐ届く物語です。できれば、親が元気なうちにこの本を読んで、そしてそのあとでほんの少しでも優しくなれたら。そんなふうに思わせてくれる一冊です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。