当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

正欲/朝井リョウ -感想- 普通か異常か。正しいか間違いか。どうしてそうだと言える?

読書感想です。今回は朝井リョウさんの「正欲」です。
映画化もされた小説です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:正欲
  • 作者 :朝井リョウ
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :528P
  • 書影出典:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 考えさせられるような内容の小説を読みたい
  • 直木賞作家の代表作を読みたい
  • 映画の原作を読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。』

引用元:新潮社

感想

難しいテーマだが嫌味がない
「多様性」がテーマとなっています。道を逸れずに進めることが正しいのか、その道が正しいとはどうして言えるのか、「普通」とはなにか、「正しさ」とはなにか。多くの人が見て見ぬフリをしていたかもしれないような面に触れていくような物語です。意見を示すような押しつけがましい嫌味は全くなく、あくまで「多様性」の様々な一面を描く物語として面白く読むことができます。

様々な価値観が交差する
そのテーマを表す個性的な登場人物たちのそれぞれの物語がいくつか並行して進んでいきます。個々で成り立つ物語でありつつ、何なのかな?という伏線のような描写などもあり、それらが後半にハッとさせられるような形で結び付く。自分が持つ無意識に偏った目線に気付かされるような、作品のテーマを強く印象付けるような面白い物語の構成でした。

現代的リアリティ
現代的な話題や表現が使われているので、リアリティのある物語に感じられます。自分はこう思うというのが具体的にイメージされ、登場人物たちの言葉が自分の価値観に対して向けられているようにさえ感じる箇所もあるように思います。ただ、物語で扱う価値観が特殊であるが故に、嫌な生々しさを感じない絶妙なバランスを保っているようにも感じます。

知ることに意味はある
ネット上などでは「多様性」についての意見を目にすることが多くあります。自分が「普通」であると思っていると、それらにじっくり向き合う機会は少ないかもしれません。この小説にも「多様性」へのいくつかの考え方が描かれていますが、その中には自分を「普通」だと思っている人への問い掛けもあったように思います。難しい問題でありどうすれば良いという答えはありませんが、自分なりの考えを持っておくことは大切かもしれません。この小説はそんなことを考えるきっかけにもなります。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓
使用感など書いた記事もありますので読んでみてください↓↓↓
kindle unlimitedを使った感想を率直に。おすすめできる?【レビュー・評価】

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

物語として
冒頭の謎の文章、事件に関する記事、という明らかな伏線のような始まりから、読んでいくにつれて想像していなかった真相が明らかになっていく。情報の表面だけから強い思い込みを持ってしまう自分に気付かされるような、このテーマに合わせて工夫がされた構成だなと感じました。水に欲情するという”特殊”な欲が上にも書いたように嫌な生々しさを感じない絶妙なバランスで選ばれているように感じました。

繋がり
佐々木佳道と桐生夏月が再会し繋がりを持っていくシーンには、同志に出会える幸福感みたいなものが凝縮されていたようで、二人の間にある要素に理解はできずともその繋がりを持つことの必要性を強く感じました。身近でいえば同じ趣味の人に出会って仲良くなれるみたいな感覚ですが、三大欲求において少数派となってしまう人にとってはこの物語でもそうであったように生死に関わるほどの価値があるもので、当事者もそうでなくてもそのことを知っておく必要があると感じました。

正欲
「多様性」というのは大枠としては三大欲求のうち”性欲”の周りで語られますね。”睡眠欲”は人によって程度はあれどその差で何か問題が起きるようなことはなさそうです。”食欲”は食べ物の好き嫌いではなく、お腹がすいた、という共通した欲のことかと思いますが、ここにも何も問題は起きようがなさそうです。そう考えると”性欲”はそれらに比べて「多様」極まりなく、また他者との関わりにも影響するような特殊な領域ですね。何をそれとして定義するのかすら私は理解できていません。この物語に登場した様々な価値観はすべてこの領域に一緒に含まれるものなのでしょうか。そこに正しさを求めること自体が無謀なのかもしれません。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/正欲

まとめ

以上、朝井リョウさんの「正欲」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。