天王寺博士?との会話はいずれも興味深かったですね。印象的だった言葉を引用します。
「人間の最も弱い部分とは、他人の干渉を受けたいという感情だ」
「自由以外に思考の目的はない。人間が思考によって獲得する価値のあるものは、それ以外にないからだ」
「殺人は、単なる交換である」
最後のものだけ最初は意味が全く分かりませんでした。これは読者向けの謎に関わる一つなのかもしれません。以下の考察部分でまた触れます。
登場人物たちの血縁関係が途中からごちゃごちゃしだして混乱しました。しかもそれが事件のポイントでもあったりするので、よく巻頭にある登場人物紹介ページを振り返りながら読みました。
事件のトリック自体は単純で早い段階で気づくことができるものだったかと思います。森博嗣さんもトリック自体は意図的に簡単なものにしたということを森博嗣さんのホームページで仰っています。「トリックに気づいた人が、一番引っかかった人である、という逆トリック」だそうで、この作品で読者が謎解きしなければならないのは他にもあるということかと思います。
<考察>
■地下室にいたのは天王寺翔蔵博士か?
この問いが最後に残されました。そして最後の最後に誰だか明示されない公園の老人の話がありました。森博嗣さんが仰る「逆トリック」はこの部分を指しているのでしょうか?
最終的には「地下室の老人」「白骨死体」「公園の老人」が、「天王寺翔蔵博士」「天王寺宗太郎」「片山基正」のいずれかである、どれがどれに当たるのかが考察対象です。
犀川先生と天王寺翔蔵博士の最後の会話をそのまま受け取ると、
地下室の老人=天王寺翔蔵博士
白骨死体=天王寺宗太郎
公園の老人=片山基正
となります。ある意味一つの正解ではあるのかもしれません。まず上記ではないと仮定して考察を進めます。
簡単なところから行くと、今作のタイトル「笑わない数学者」がヒントであると森博嗣さんがホームページで仰っています。ということをシンプルに受け取り、笑っていないのは「白骨死体」でそれが数学者である「天王寺翔蔵博士」であろうということになります。他の2人は笑っている描写があります。
残りがどうかというのは意見が分かれるようですが、これもシンプルに、
・天王寺宗太郎作の「睡余の思慕」を思わせる状況である「地下室の老人」が「天王寺宗太郎」
・”内と外”という概念に触れた「公園の老人」が「片山基正」
かなと私は解釈しています。もう少し補足すると、「地下室の老人」は最後に心不全で亡くなりますが「片山基正」は癌を患っていた(治ったとされているが)ということと結びつかないこと、”内と外”という概念には「地下室の老人」も触れていますがそれはあの建物にいるからであってその概念を外まで持ち出している「公園の老人」の方がその概念にこだわりを持っているように感じる(「天王寺宗太郎」自身に”内と外”という概念との関連がないことから、もし「公園の老人」が「天王寺宗太郎」であるとして”内と外”の話をしだすことには違和感がある)ことから「公園の老人」は「片山基正」で、消去法で「地下室の老人」が「天王寺宗太郎」という感じです。「地下室の老人」の「殺人は、単なる交換である」という言葉も「睡余の思慕」を思わせる気がします。
ただし、この意見の反証のような描写もあり、自信をもってこうだと言えるものではないですね。例えば「地下室の老人」は「人間の最も弱い部分とは、他人の干渉を受けたいという感情だ」という話をしていましたが、妻から愛されなかった「片山基正」を思わせる部分があるように思います。
皆さんはどうお考えになりますか?
■(ついでに)ビリヤード問題
「五つのビリヤードの玉を真珠のネックレスのようにリングにつなげてみるとしよう。玉にはそれぞれナンバーが書いてある。さて,この五つの玉のうち幾つ取っても良いが,隣どうし連続したものしか取れないとしよう。一つでも二つでも五つ全部でも良い。しかし離れているものは取れない。この条件で取った球のナンバーを足し合わせて1から21までのすべての数ができるようにしたい。さあ,どのナンバーの玉をどのように並べてネックレスを作ればよいかな?」
考察というか解いてみようという部分ですね。
一般解があるのかは不明です。ただこの問題の答え自体は少し考えればわかりそうです。
簡単に気付けそうなこととしては、
① 1と2は必ず含まれる。(数の組み合わせで作れないため)
② 3と4のいずれかは必ず含まれる。(いずれも含まれないと4が作れない)
③ 玉を取るパターンは全部で21通り。(1個取るパターンが5通り、2個取るパターンが5通り、3個取るパターンが5通り、4個取るパターンが5通り、5個取るパターンが1通り)
③-1 ということは、21までのすべての数ができるためにはこれらのパターンの中で出来る数に重複は発生しえない。
③-2 5個の数字を足し合わせたら21になる。(1と2以外の3個の数字を足し合わせたら18になる。)
ここからは適切な導き方はわかりませんが、力技で求めることができそうです。①、②、③-2をすべて満たす5つの数字の組み合わせを洗い出してみます。この6パターンしかありません。
(1、2、3、4、11)
(1、2、3、5、10)
(1、2、3、6、9)
(1、2、3、7、8)
(1、2、4、5、9)
(1、2、4、6、8)
これらについて一つずつ、③-1を満たすかどうか確認をしていくと、
(1、2、3、5、10)
以外のパターンでは組み合わせの中に重複が発生することがわかります。5つの数字の組み合わせはこれが答えということになります。なぜ他のパターンがダメかを一つだけ例で示します。似た考え方で他のパターンもダメなことがわかります。
(1、2、3、4、11)
1と2は隣り合うことができません。(3が重複してしまうため)
同様に1と3も隣り合うことができません。(4が重複してしまうため)
つまり1の両隣には4と11が入り、残りの2か所に2と3を入れることになりますが、1と4で5、2と3で5とどうしても5の重複が発生します。③-1を満たすことができないためこのパターンはダメです。
最後に(1、2、3、5、10)の並べ替えです。
1と2は隣り合うことができません。(3が重複してしまうため)
2と3は隣り合うことができません。(5が重複してしまうため)
つまり2の両隣には5と10が入り、残りの2か所に1と3が入ります。
(1)1-5-2-10-3
(2)3-5-2-10-1
(3)1-10-2-5-3
(4)3-10-2-5-1
(1)と(4)、(2)と(3)は同じです。(以下の図を見てもらえばわかると思います。)
(2)(3)のパターンは3-5-2で10が重複してしまうためダメです。
ということで答えは、
(1-5-2-10-3)
です。試しに21まで作れるかやってみてはいかがでしょうか。