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去年の冬、きみと別れ/中村文則 -感想- 猟奇的事件により死刑判決を受けた被告。しかしその真相は…

読書感想です。今回は中村文則さんの「去年の冬、きみと別れ」です。
ミステリー小説で、映画化もされている作品です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:去年の冬、きみと別れ
  • 作者 :中村文則
  • 出版社:幻冬舎(幻冬舎文庫)
  • 頁数 :196P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリー小説が好き
  • 人間の暗い内面が見える作品が好き
  • 短めでさらっと読める小説が読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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4
5
読み応え
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5
過激表現
1
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3
4
5

あらすじ

『愛を貫くには、こうするしかなかったのか?

ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみ込まれていく「僕」。そもそも、彼はなぜ事件を起こしたのか? それは本当に殺人だったのか? 何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し、真相は迷宮入りするかに思われた。だが――。』

引用元:幻冬舎

感想

純文学的ミステリー
あまり前評判やあらすじを見ずに中村文則さんの作品とだけ知って読んだため途中まで純文学寄りな小説と思い込んでいましたが、しっかり謎が解き明かされていって、あ、ちゃんとしたミステリーだった、と気付きました。一方で途中まで純文学と思わせるような人の内面や行動の生々しい描かれ方も兼ね備えています。あまり経験のない読書体験です。

静かに迫る
名探偵が軽快に答えへ導いてくれるわけでも、名犯人が爽快に犯行を成し遂げるわけでもありません。静かに事件の真相に迫っていきます。しかし淡々としているわけではありません。どことなく感じる違和感がどんどんと積み上がっていき、気付くとしっかりミステリーの中に引きずり込まれていました。

狂気
登場人物たちの狂気に触れることもこの小説ならではの体験です。私は自分の中にもあるとか共感できるということはありませんでしたが、良くも悪くもそういう思考もあり得るのかと視野が広がる感覚があります。色々な考え方を吸収できるのが小説のいいところの一つだと私は思っていますが、そういう意味で新たな視点を与えてくれるような独特な思考が多く含まれていたように思います。

驚愕の真相
文学的な描写に気を取られがちですがしっかり仕掛けが潜んでおり、驚きの真相が待っていました。トリックが明かされてすっきりしつつも、迎えた結末にはどうあるべきなのか考えさせられてしまうような複雑な気持ちを持ちました。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

タイトル回収
そこで真犯人は完全に復讐に飲み込まれた、ということですよね。闇落ちの瞬間を何とも美しく表現するものだなと感心しました。この美しさを表現するために恋人の死があったのかとさえ思えてしまうほどです。なんとなく木原坂雄大に似た思考が表れているような気もします。この小説は作中作でもあり、芸術家として影響を受けて破滅の瞬間に現れる美みたいなものに魅入られてしまっているのでしょうか。

誰も殺さずに死刑判決
木原坂雄大も姉の朱里も直接手は下していない、というのは衝撃でした。確かに写真に対する異常な執着により避けられた死を避けることができなかったわけですが、事実だけ見れば死刑までには至りません。ただ、彼の手紙の内容からは事実がまだそこに至っていないだけで、その危うさは十分に持ち合わせているように見えます。この時、木原坂雄大をどう扱うのが正しいのでしょう?少なくとも”編集者”が行ったことは正しいとは言えません。

叙述トリック
“僕”が木原坂雄大を追う記録と、資料として木原坂雄大からの手紙、後半には”編集者”が語る真実、が入り混じって進んでいく面白い構成でした。手紙を出しているのが二人だったことや、この小説が作中作であることなど、真相を知ってから読み返すと新たな発見がありそうですね。”僕”が記したとされる冒頭の以下の文章が意味が異なって見えるのは面白い仕掛けでした。

『あなたが殺したのは間違いない。……そうですね?』

イニシャルの謎
『M・Mへ
そしてJ・Iに捧ぐ。』

ちょっと困惑する部分でした。ちょっと読み返してイニシャルに該当する登場人物がいたか確認したりしてしまいましたが、文庫版の中村文則さんの解説にもある以下の一文の通りシンプルに、木原坂雄大と吉本亜希子を指しているということでした。

『~これは『小説』だから本文では仮名を用いたけど、そこには彼らの本名を。・・・・・・まずはあの死刑になるカメラマンへ、そして大切なきみに』

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/去年の冬、きみと別れ

まとめ

以上、中村文則さんの「去年の冬、きみと別れ」の読書感想でした。
ミステリーとして独特な個性を持っていて私は非常に好みの作品でした。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。