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沈黙のパレード/東野圭吾 <あらすじ・感想・考察> 「沈黙」にこそ真実が潜んでいる

あらすじ・読書感想・考察を記します。今回は東野圭吾さんの「沈黙のパレード」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:沈黙のパレード
  • 作者 :東野圭吾
  • 出版社:文藝春秋(文春文庫)
  • 頁数 :360P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 感情に重きを置いたミステリーが好き
    事件の裏にある「人間ドラマ」が本作の魅力なので、心理描写が丁寧な物語が好きな人には刺さると思います。

  • 社会派ミステリーに関心がある
    テーマ性が強いので、読み応えのあるミステリーや、倫理観を問うような話が好きな人にもおすすめです。

  • 読後にじっくり余韻を味わいたい
    派手などんでん返しはないけれど、読み終えたあと静かに心に残ります。「これはどう受け止めるべきなんだろう」と考えるのが好きな人には合っていると思います。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『静岡のゴミ屋敷の焼け跡から、3年前に東京で失踪した若い女性の遺体が見つかった。逮捕されたのは、23年前の少女殺害事件で草薙が逮捕し、無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。町のパレード当日、その男が殺された――容疑者は女性を愛した普通の人々。彼らの“沈黙”に、天才物理学者・湯川が挑む!ガリレオvs.善良な市民たち
“容疑者X”はひとりじゃない。

引用元:文藝春秋

感想

「ガリレオ」シリーズ

「ガリレオ」シリーズの中の一作です。

数年前に失踪した若い女性が、焼け跡から遺体として発見されます。容疑者として浮かんだのは、かつて別の事件でも疑われながら無罪となった男。今回も証拠不十分で立件できず、彼は再び町に戻ってきます。

しかし、その町では彼を快く思わない人々がいました。

——そして、パレードの日、事件は起きます。

静かだけど、重く響く怒り

印象的なのは「静かだけど、重く響く怒り」のような感情でした。

タイトルの「沈黙のパレード」が象徴するように、華やかな行事の裏で人々が押し殺してきた想いが、やがて一つの事件へと結びついていく。その過程が丁寧に描かれていて、ぐいぐい引き込まれました。

加害者にも被害者にもなり得る人間たちの心理、その複雑さや矛盾がリアルです。

特に今回は、湯川教授の「冷静な観察者」から少し踏み出したような立ち位置が新鮮でした。感情を持たないようでいて、信じたい人を信じている。その姿にぐっときます。

人間ドラマとしての色が濃いミステリー

物理トリックなどの要素は控えめで、むしろ人間ドラマとしての色が濃い作品です。

だからこそ、シリーズを読んでいなくても楽しめる内容になっています。

逆に、「テンポよく派手な展開を楽しみたい人」や「トリック重視で読みたい人」にはちょっと静かすぎると感じるかもしれません。

しかしそんな人にもたまには違うタイプのミステリーとして読んでほしいと思えるくらい沁みる一冊です。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

共感しやすい町の雰囲気

被害者の女性・佐織はすでに亡くなった状態で登場するにもかかわらず、その存在感がものすごく強かったです。

彼女がどんな人物だったのか、町の人たちが彼女をどれだけ大切に思っていたのか、回想や証言の中で少しずつ浮かび上がってきます。それが静かだけど胸に響いて、「こんなにも愛された人がいたんだな」としみじみ感じさせられます。

そして、舞台となる町の空気感もとても印象的でした。のどかで穏やかに見えますが、その裏にある不穏な空気や、住民たちの間に流れる目に見えない結束のようなものが、読んでいてじわじわと伝わってきます。

その雰囲気の描写がとても巧みで、まるで自分が町の一員になったような感覚になるほどでした。

よくやったと思ってしまう

この作品は、「正義って誰が決めるのか?」「法で裁けない悪に対して、どう向き合うべきか?」という問いがテーマとなっていました。

蓮沼のように、罪を犯しておきながら堂々と生きて、そしてまた人を苦しめるような存在を見ると、法では裁けないなら「誰かがやるしかない」と思ってしまうのも無理はないように思います。本作の特徴は、まさにその「感情」と「理性」の間で揺さぶってくるところだと思います。

蓮沼は、過去の事件で無罪になり、また堂々と町に戻ってきました。明らかに挑発的で、反省の色もない。それどころか、「また誰かを傷つけそう」な危うさを持っていました。なのに、法は彼を裁けません。それどころか、彼の黙秘という“権利”が守られています。

なので「誰かが手を下して当然だ」と思う人がいてもおかしくはありません。町の人たちの気持ちも描かれており、読んでるこちらも「そういう積み重ねがあったんだ」と納得してしまう余地があります。

しかし一方で、湯川が最後に「自分の正義のために他者の命を奪うことを、肯定してしまっていいのか?」と問いかけるような立場に立っていることも印象的でした。 「自供させて、後悔させて、そして報いを受けさせたい」という気持ち。しかし現実はあっけない。そういう虚しさもあの結末にはあったように感じます。

黙秘は有効なのか

本作のキーになる「黙秘」の話についてですが、基本的には現実でも「黙秘していれば、決定的な証拠がない限り罪に問うことは難しい」らしいです。

・憲法で「黙秘権」は保障されている
日本国憲法の中に被疑者・被告人には黙秘する権利があります。たとえ黙っていたとしても、それを理由に不利に扱ってはいけないとされています。

・自白がなくても起訴・有罪にはできる
ただし、物的証拠や状況証拠がそろっていれば、黙秘していても起訴・有罪になることもあります。逆に言えば、証拠が不十分であれば、黙秘されると立件が難しくなる。これは現実でも同じなようです。

・警察・検察は「供述」を重視する
なので現場では、なんとかして自白を引き出そうと、取り調べが長期化するケースもあるということです。しかし、相手が黙秘を貫き、かつ証拠が決定打に欠ける場合、「嫌疑不十分」として不起訴や無罪になることがあるのは事実のようです。

・まとめ
蓮沼のように、過去にも罪を疑われたが証拠不十分で逃れ、今回も黙秘を貫くというケースは、フィクション的な脚色はあるにしても、法制度としては十分起こりうる話なようです。だからこそ、あの物語がリアルに感じられるし、「本当に正義って何だろう」と考えさせられます。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/沈黙のパレード

まとめ

以上、東野圭吾さんの「沈黙のパレード」の読書感想でした。

華やかなパレードの裏にある人々の「沈黙」にこそ、真実が潜んでいることを教えてくれました。ミステリーでありながら、人間の感情の奥深さに迫る作品です。読み終えた後、しばらく心に残る物語でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。