当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

君のクイズ/小川哲 <あらすじ・感想・考察> クイズ×ミステリー。問題文が読み上げられる前に答えがわかる?

あらすじ・読書感想・考察を記します。今回は小川哲さんの「君のクイズ」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:君のクイズ
  • 作者 :小川哲
  • 出版社:朝日新聞出版(朝日文庫)
  • 頁数 :248P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 短くても中身の濃い小説を読みたい
    時間があまりないけど、「読んだ感」がしっかり欲しい人にぴったり。

  • 思考系・知的なテーマが好き
    クイズが題材。ミステリ+哲学のような味わいがあるので、考えるのが好きな人には刺さると思います。

  • ミステリ好き・トリック好き

    “問題文より先に答えた”という冒頭は、完全にミステリのそれ。そこから真相に迫っていく展開は、謎解きとしての面白さもあります。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。
読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される!「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!

引用元:朝日新聞出版

感想

クイズ小説

舞台は、テレビのクイズ番組の決勝戦。

最終問題に答えたのは、なんと“問題文が読み上げられる前”でした。

主人公は、クイズ王として知られる男。

その決勝の対戦相手が「なぜ答えられたのか?」という謎を追う中で、クイズの世界の奥深さ、人間の記憶や思考、そして“知る”ということの本質が浮かび上がってきます。

クイズとは何か

最初に思ったのは、「クイズ小説ってこんなに熱くて知的なんだ!」という驚きです。

問題文が読まれる前に答えるというのは、ミステリーのような出だしで、そこから一気に物語に引き込まれました。

しかし、単に“謎を解く”話ではありません。主人公が問いを重ねていくうちに、「クイズとは何か?」「記憶とは?」「知識とは?」といったテーマに踏み込んでいきます。

クイズってこんなに奥が深いのか、クイズに向き合う人の思考ってこんな感じなんだ、と新鮮な発見がありました。

ボリューム、読みやすさ

ページ数は少なめで文庫本としてもかなり薄めの部類かと思います。一般的な小説と比べると短編に近い長さなので、普段あまり本を読まない人でも手に取りやすいと思います。

文章は全体的にすっきりしていて読みやすいです。難解な言い回しやクセのある文体ではないので、スラスラ読めると思います。

ただ、テーマが「クイズ」「記憶」「思考」など知的な要素を多く含んでいて、哲学的な問いも出てくるので、読んでいて「ちょっと立ち止まって考えたくなる場面」があります。その分、読み終えたあとの満足感はかなりあります。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

ゼロ文字解答のトリックについて

「ゼロ文字で正解」という現象があまりに衝撃的だったので、読み進める中で「どんな超人的なトリックが?」という期待が高まっていました。

いざ明かされた真相が「クイズの問題自体が回答者に向けた問いだった」という構造的な仕掛けで、納得はできるものの、少し肩透かしのような印象でもありました。

おそらくそのギャップは、
前半:ミステリ的に「物理的に不可能」な謎として引っ張る
後半:答えは「文脈と構造」で説明される知的なオチ

という、ジャンルの重心が少しズレるからなのかもそれません。

ただ、それでもあの真相は「クイズとは、問題だけでなく文脈や意図まで含めて成立する」という、クイズの本質を見せており、それを“問題が読まれる前に答えた”っていうショッキングな形で提示したのは、やっぱり面白かったと思います。

期待が高すぎた分、「なんだそんなことか」と思ってしまうことも含めて、この小説の味わいかなと思います。

これもクイズの形

物語の中で繰り返される 「クイズとは何か」 という問いかけを経ることで、「これはこれで一つのクイズの在り方なんだ」 と自然と納得させられました。

それはつまり、三島と一緒に“クイズの本質”に近づいていったようにも感じられます。

最初はただの勝負だったはずのクイズが、「答えるためのもの」から「問いそのものを考えるもの」へと広がっていく過程。その視点の変化が、この物語の醍醐味でもあります。

クイズは「知ってるか知らないか」だけではなく、相手の思考を読むこと、文脈をつかむこと、そして問いそのものを受け止める力も含まれることを物語を通じて読者も知っていきます。

そう考えると、あの決勝戦の“問題”が三島や本庄に向けられていたという真相も、納得のいく着地だったと思えてきます。

短くまとまる緻密な構成

あの短さでここまで詰め込んでくる構成の巧さはすごいなと思いました。

テーマも構造も緻密で、すべての要素がちゃんと「クイズとは何か」という一本の線につながっていたように思います。

しかしその分、感情の波とか余白みたいな部分が削ぎ落とされてて、少しドライな印象もあります。登場人物の背景描写とか、関係性の掘り下げもあえて最低限にしていて、全体的に語りすぎない内容になっていました。

それが練り込まれててすごいと感じる反面、人によっては「もう少しじっくり読ませてくれてもいいのに」と、物足りなさや淡白さを感じるかもしれません。

しかしそれも“クイズのテンポ感”に寄せた作りなのかなとも思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/君のクイズ

まとめ

以上、小川哲さんの「君のクイズ」の読書感想でした。

知的でスリリングで、読んだあとに頭が冴えるような一冊です。短いけれど、深くて濃い読書体験ができる作品でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。