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海賊とよばれた男/百田尚樹 <あらすじ・感想・考察> 実話ベースの壮大なビジネス小説

読書感想です。今回は百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」です。

2013年本屋大賞受賞作です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:海賊と呼ばれた男
  • 作者 :百田尚樹
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :(上)386P(下)370P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 熱い人間ドラマが好き
    昭和の情熱や信念に生きた人々の姿に心打たれます。涙腺が緩むシーンも多いです。

  • 歴史や戦後復興の物語に関心がある人
    フィクションとは思えないリアルさで、戦後日本の復興ドラマとしても読み応えがあります。

  • 実話ベースの話にワクワクする
    モデルになっている出光佐三の人生そのものがドラマチックなので、「これ実話なの!?」と驚きながら読めます。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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5
読み応え
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過激表現
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あらすじ

『物語は、敗戦の日から始まる。
「ならん、ひとりの馘首もならん!」--異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とは--出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベル

引用元:講談社

感想

戦後の石油業界

戦後まもない混乱期、日本の石油業界で挑戦を仕掛ける一人の男がいました。

敗戦で焼け野原になった日本で、社員を一人もクビにせず、資源も金もない中、たった一つの信念だけを頼りに立ち上がっていく——

これは、出光興産の創業者・出光佐三をモデルに描かれた、実話ベースの壮大なビジネス小説です。

現代では感じられないエネルギー

まず、読後に思ったのは「こんな人、本当にいたのか……」という驚きです。

昭和の男の熱さ、信念の強さ、それに巻き込まれる人々の生き様——とにかくエネルギーがすごいです。

現代ではなかなか見かけない“昭和の魂”を感じる作品です。

スケールが大きい

ただのサクセスストーリーではありません。

会社とは何か、経営とは何か、人を雇うとは何かっていう深いテーマが芯にあり、それが熱く語られるから心に刺さります。

企業が国家や世界と対峙する構図はスケールが大きくて、読んでいてワクワクします。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

どこまでが実話なのか

本作は「出光佐三」という実在の人物をモデルにしていますが、小説として脚色された部分と史実が混ざっているので、どこまでが実話なのか気になります。

ざっくり言うと、大筋はかなり実話に近いですが、細かい描写や登場人物の会話、心理描写などは創作要素が入っているという形です。(事実とは異なる点が多いとの指摘が出光関係者から出されているという話もあります。)

【実話に近い部分】
・国岡鐡造のモデル=出光佐三(出光興産の創業者)
・国岡商店=出光興産
・終戦直後、社員を一人も解雇しなかった話
・外国の石油メジャーに対抗してイランから石油を輸入した話(※実際の出光丸事件)

【フィクションや脚色の可能性が高い部分】
・国岡鐡造という名前自体がフィクション
・登場する社員や家族の描写・セリフ
・一部のエピソードの時系列や展開
→ ドラマチックに見せるために整理・圧縮されている可能性あり。

要するに、物語の幹(流れや出来事)は実話にかなり近くて、枝葉(細かい描写や心情)は小説として盛っている、という感じのようです。

 
こよい
国岡商店って会社は聞いたこと無いなと思ったら、出光興産だったんだね!そんな大きな会社のことで、しかもこんなドラマティックな背景を持った会社だとは驚いたよ。
 
ロボ
そうそう、びっくりするよね!「国岡商店って実在しないのか…」って気づいたとき、「え、じゃあこれって出光興産の話だったの!?」ってなるの、すごくよくわかるよ。

出光って、今では普通にガソリンスタンドのイメージが強いけど、その裏にこんな“物語”があったなんて、私も最初知ったとき驚いた。石油メジャーに一企業が立ち向かうとか、社員を一人も切らないとか、まさにマンガか映画の世界。でもそれが本当にあった話っていうのがすごいよね。

 

 
こよい
物語の中の鐡造(=出光佐三)は「利益より人」って価値観を持ってる。現代ではちょっと浮きそうな考え方だけど、それが当時の日本を動かす原動力になったと思うと、なおさら胸にくる。出光の歴史、もっと知りたくなるね。


“今と違う”部分

統制しようとする組織などと度々争ってたように、会社の運営だけでなく日本や世界のルールを組み立てるような役割も担っていたのは現代だとイメージしづらいです。戦前戦後という激動の時代ならではって感じがします。

今の企業はどちらかというと「既存のルールの中でいかにうまくやるか」が求められてる気がしますが、当時の出光佐三=国岡鐡造みたいな存在は、「国の形をどうすべきか」「ルールが間違ってるなら変えるべきだ」って本気で考えて、動いてた人だったように見えます。

■ 国と対等、あるいはそれ以上の視点
例えば、
国際石油資本(メジャー)と真正面から対立
GHQや政府の政策に真っ向から反論
民間企業の立場でありながら、“国家とは何か”を問う姿勢

これはもう単なる“商売人”じゃなくて、思想家とか活動家に近いスケールだと思います。

■ 現代との対比が際立つところ
現代の感覚では「そんなこと国家に逆らってできるの?」って思ってしまいますが、当時はまさに「何もないところから国を作り直す」タイミングで、ある意味、国の骨格を企業人たちも一緒に担ってた時代だったのかもしれません。

それが作品全体に漂う「誇り」とか「覚悟」みたいなものにつながってて、読んでいて心に響きます。特に、人を大事にするやり方が正しいとして突き進む姿に、共感というより“畏敬”の念を抱きます。

実際にあの時代をリアルタイムで体験してない私たちだからこそ、こういう物語を通して、「あの時代に生きるってどういうことだったんだろう」って考えること自体に意味があるのかもしれません。

現代はさっぱりしている?

こういう時代を経ているということを知ると、現代はなんだかさっぱりしているように感じます。

国のためとか、人を大事にという意識は薄れているのでしょうか?この小説に描かれた時代以降でどういう変化によって現代の姿になったのでしょうか。

■ なぜ現代は「さっぱり」して見えるのか?
戦後から現代までの間に、いくつかの大きな変化があって、それが人と社会の関係性に影響してるのかもしれません。

1. 個人主義の浸透
高度経済成長期までは「会社は家族」「日本のために働く」って価値観が強かったようですが、1990年代のバブル崩壊以降、「自分の人生は自分で守る」という考え方が主流になってきた。

2. グローバル化と効率重視の経営
世界の企業と戦うためには、感情や絆より「数字」と「スピード」が求められます。国のために立ち向かう、というロマンより、利益を出すことが目的になります。

3. 法と制度の整備
昔はルールが曖昧だった分、個人が“道理”で動けたのかもしれませんが、現代は法律や規制でガチガチに管理されており、「正しさ」はすでに“決まっているもの”になっています。

■ 「さっぱりしてる」=悪いことではない
現代は確かにドライですが、そのぶん個人の尊厳や多様性が重視される時代でもあります。“全員で同じ方向を向く”時代は熱かったですが、その分、個人の自由がなかった側面もあります。

国岡鐡造のような生き方は、今の時代にはなかなか合わないかもしれません。でもだからこそ、「こういう生き方があった」って知ることに価値があります。現代の合理性やドライさを「否定」するんじゃなくて、「対比」することで、“今の自分にとって大事なもの”が何なのかを見つけるヒントになると思います。

現代へ繋がる道を作った
・「統制経済」に真っ向から反対し、自由競争を主張する姿勢
・資本の論理よりも、人の可能性や誇りを信じる経営哲学
・国や企業の枠を超えて、“人間としてどうあるべきか”という本質を問う態度

国岡鐡造は、昔気質な情と信念の人でありながら、驚くほど現代的な視点も持っていたように感じました。だからこそ信じた道を貫くことが世間から認められ、現代へ繋がる道を作れた人だったのだと思いました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/海賊と呼ばれた男(上)

まとめ

以上、百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」の読書感想でした。

今の時代、「働き方改革」や「自分らしく生きる」がよく言われますが、この物語は「誰かのために命を燃やす」ことの価値を真っ向から語ってきます。だからこそ考えさせられるし、心を揺さぶられました。熱い物語が好きな人、実話ベースのビジネス小説が好きな人にはぜひ読んでほしい作品です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。