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星の子/今村夏子 -感想- あやしい宗教にのめり込む家族を持つ少女の目線。第39回野間文芸新人賞受賞作。

読書感想です。今回は今村夏子さんの「星の子」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:星の子
  • 作者 :今村夏子
  • 出版社:朝日新聞出版(朝日文庫)
  • 頁数 :256P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • クセになるような低い温度、不穏さが続く小説を読みたい
  • さらっと読める小説が読みたい
  • 賞受賞、映画化もされた純文学作品を読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

林ちひろは中学3年生。病弱だった娘を救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、その信仰が家族の形をゆがめていく。野間文芸新人賞を受賞し本屋大賞にもノミネートされた、芥川賞作家のもうひとつの代表作。

引用元:朝日新聞出版

感想

あやしい宗教下の少女の視点
あやしい宗教にのめり込む両親を持つ少女の視点で物語は描かれます。幼い時からそのような環境で暮らしてきてそれが普通となりつつも、成長し触れる世界が広がるにつれて周囲とのギャップが目につくようになります。そのような状況が淡々と描かれていきます。

一定の低温度
あらすじからも感じられるように明るい雰囲気ではありません。少女の視点で日常生活を過ごす中にあやしい要素が付きまとってきます。あからさまな形ではなく、一見自然に見えるようなあやしさが延々と続いていきます。この一定の低温度感が印象的でした。

なぜか不快さが少ない
テーマから見ると子どもが虐げられるような不快さがありそうに思いますが、想像するような不快さは少なかったです。内外のギャップに戸惑い、自分の立ち位置を確かめるような複雑な状況にありながら、両側面を受け入れ、満たされている少女。両親があやしさを抱えていても、少女から見れば唯一の家族。この小説ではあやしい宗教というわかりやすい歪さを用いて、家族の在り方のひとつを描いているように私は感じました。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

一定の雰囲気を貫き通す
ぼんやりと暗い雰囲気が延々と続き、明滅もなく最後まで続く一貫性がとても印象的でした。ただ単調だとは思いませんでした。何故なんでしょう。あやしげな要素が背景としてあるものの、属する人物がそれに反してまともに見えたり、一方で外の人物が悪く見えたり、その間にいるちひろはやけに楽観的というか何を考えているかわからないくらいあっさりしていたり。明暗をはっきりと区別できずに狭間を漂っているような不思議な感覚でした。

悪い人がいない(見えない)
宗教周りの人たちには明らかに悪いという人が出てこず、両親もまたちひろのことを害したりすることもなく一見普通に見えるような描かれ方でした。外の人物たちも、南先生は大人げないなと思いましたが、なべちゃんや新村くんなどはちひろの背景にとらわれずに接してくれる良い人でした。これはちひろの視点であり、両側とも悪く見えないというのがちひろの複雑な立ち位置が表れていると思います。

何が正しいのか
作品を通して印象的だったのは、ちひろが自分の家族と宗教を客観的に見る力を徐々に身につけていく過程です。彼女は学校で友達が普通の家族の生活を送っていることに気付き、家の外の世界と自分の家庭との違いに困惑します。それでも、彼女は両親を愛し、家族を見捨てることができないというジレンマを抱えています。他人に簡単に理解されない家族や信仰との関係性の難しさを感じました。

事実だけ見ると雄三おじさんやちひろの姉の行動が正しいと思いたくなりますが、ちひろの視点に立つとそう見えなくなります。ちひろの視点を通して、何が正しくて何が間違っているのか、個人の価値観と家族の価値観が衝突する瞬間をリアルに感じることができました。人に干渉することの難しさもまた感じます。

ラストについて
ちひろがどんな決断を下すのか、その結末がとても気になる中で、ふっ、と終わってしまって置いてけぼりにされた感覚になりました。それはこのシーンが意味深長なものに見えたからかなと思います。

研修旅行でなかなか両親と出会えない。流れ星が見えない。この環境からちひろが離れつつあるのかなと私からは見えます。

両親と再会でき3人で星空を見るものの、ちひろと両親の目線が一致することがありません。そのまま両親に両側から抱きしめられいつまでも星空を眺め続けた、として終わります。宗教はあくまでただそこにある要素の一つであってそれに対する立ち位置は変わっていくかもしれませんが、両親も純粋に家族のことを思っているということ、ちひろにとってもただ大切な家族であるということ、それは誰からも否定されることではないと思わされるような美しく印象的なシーンに私は感じました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/星の子

まとめ

以上、今村夏子さんの「星の子」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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