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カフネ/阿部暁子 <あらすじ・感想・考察> 人とどう向き合うか。彼らの選択について考える。

読書感想です。今回は阿部暁子さんの「カフネ」です。

2025年本屋大賞受賞など多くの評価を受けている作品です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:カフネ
  • 作者 :阿部暁子
  • 出版社:講談社
  • 頁数 :304P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 日常のあたたかさを感じたい

  • 喪失を経験したことがある

  • 食べること・作ることが好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。
やさしくも、せつない。この物語は、心にそっと寄り添ってくれる。

最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。無愛想なせつなに憤る薫子だったが、疲労がたたりその場で倒れてしまう。
実は離婚をきっかけに荒んだ生活を送っていた薫子。家まで送り届けてくれたせつなに振る舞われたのは、それまでの彼女の態度からは想像もしなかったような優しい手料理だった。久しぶりの温かな食事に身体がほぐれていく。そんな薫子にせつなは家事代行サービス会社『カフネ』の仕事を手伝わないかと提案する。

食べることは生きること。二人の「家事代行」が出会う人びとの暮らしを整え、そして心を救っていく。

引用元:講談社

感想

家事代行サービスを通じて

とあるきっかけで出会った二人の女性、薫子とせつなの物語です。

それぞれの喪失を抱えながら、家事代行サービス「カフネ」を通じて関わりを持っていきます。

静かに心に沁みる雰囲気

静かに始まり、じわじわと心に沁みてくるようや物語です。

派手な展開があるわけではありませんが、人とのつながりや、言葉にしきれない感情が丁寧に描かれており、一つ一つのやりとりに心を揺さぶられます。

人とどう向き合うかを考える

読み進めるほどに、「人とどう向き合っていけばいいのか」「本当のつながりって何だろう」と、自分自身の人間関係にも重ねて考えたくなります。

心を開くことのむずかしさと、それでも誰かと一緒に生きていきたいという願い。そんな繊細で深いテーマを届けてくれます。

本屋大賞受賞の理由

『カフネ』が2025年の本屋大賞を受賞した理由は、主に以下の点が評価されたためかと思います。

1. 登場人物の繊細な心情描写

主人公たちが抱える喪失感や再生への思いが丁寧に描かれており、読者が深く共感できる作品となっています。

2. 人と人とのつながりの大切さを描いたテーマ性

家事代行サービス「カフネ」を通じて、他者との関わりや日常の小さな幸せが描かれ、人との絆の大切さを再認識させられます。

3. 読後感の温かさと深い余韻

物語を読み終えた後に、心に温かさと深い余韻が残る点が、多くの書店員から支持を得ています。

これらの要素が総合的に評価され、『カフネ』は本屋大賞を受賞しました。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

人とどう向き合うか

この物語で印象的だったのは、「人とどう向き合うか」「本当にわかり合うって何か」という根深いテーマが描かれていることです。

たとえば薫子と公隆の関係はとてもリアルだったように感じます。「離婚して、しばらくしてから、ようやく本音を話せるようになる」というのは、皮肉ですが現実にもあることです。

心を開いたとしても、すれ違ってしまった時間は戻りません。分かり合えた瞬間があっても、一緒には生きていけないことがあるということに、とても切なく、複雑な気持ちになりました。

他にも、
・春彦と薫子のすれ違い
・依頼人との“他人だからこそ分かち合える”不思議な親密さ

いろんな形で「わかろうとすること」と「わかりきれないこと」の境界線が描かれていて、考えさせられました。

薫子が最後にパートナー制度を提案したのも、もしかしたら「全部わかり合う」ことじゃなくて、「わからなさを抱えたまま、それでも一緒にいることを選ぶ」っていう向き合い方だったのかもしれません。

ラストの薫子の提案

ラストで薫子がせつなに「パートナー制度」を提案する場面は感動的でもあり、ちょっと唐突にも感じられる部分でもありました。

出会ってからわずか一ヶ月。いくら濃密な時間を過ごして、お互いの孤独を埋め合うような関係になったとはいえ、「パートナー制度で生きていく」っていうのは大きな決断です。春彦や、叶わなかった子どもの代わりのように見えてしまう危うさもあるように思います。

しかし同時に、それは“すべてを理解し合えるわけじゃなくても、共に生きる”という選択肢を示していたのかもしれません。

たとえば、
・春彦の死がぽっかり空けた穴
・叶わなかった母性への執着
・せつなとの一体感が高まる感情的なタイミング

そういういくつもの感情が、あの提案に押し出されていた気がします。

しかしその一方で、薫子はあの時点でようやく「誰かと共に生きたい」と言えるようになったとも受け取れます。

血のつながりも恋愛感情も超えて、「この人となら未来を歩める」って思える誰かに出会えた奇跡でもあるのかもしれません。

たぶんあの関係を“代用品”として描いてはいないと思いますが、読者側がそう見えてしまう余白も残してるのが、この作品の面白さかもしれません。読む人によって「踏み出した一歩」とも「逃げ場」とも感じられるようになってる気がします。

また、それを「受け入れた」せつなの変化もまた、この物語の大事なポイントだと思います。

最初のせつなだったら、他人と深く関わることや、期待されること自体に戸惑って、逃げていたはずです。しかし、薫子との短くも濃密な時間を経て、「誰かと生きていくことを選ぶ」ということに一歩踏み出しました。

つまり、これは“未来に対しての希望を持てた”ということでもあって、物語全体を「喪失から再生へ」と導く鍵にもなっていました。

春彦が遺産をせつなに残した理由

この点は物語の大きな余白でした。

恋人ではなかったし、血縁でもありません。それでも彼はせつなに何かを託しました。

たとえば、春彦にとってせつなは自分の本当の姿を見せられた数少ない相手だったのかもと思えます。薫子にさえ見せなかった「弱さ」や「迷い」を、せつなには素直に出せていた。だからこそ、最後に何かを託したくなったのかもしれません。

遺産は「財産」ではありますが、あの作品ではどこか「想いの引き継ぎ」みたいな意味合いも感じました。

せつなが「カフネ」を続けていることも知っていたし、自分がいなくなった後も、人のために生きる誰かに残したかったのかもしれません。

親友という言葉では括れないし、恋人じゃなかったからこその距離感。せつなに託したのは「お金」じゃなくて、未来に手渡したかった何かだった気がします。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/カフネ

まとめ

以上、阿部暁子さんの「カフネ」の読書感想でした。

人と人との関係がいかに複雑で、でもそれでも向き合う価値があるということを教えてくれる物語でした。喪失を抱えながらも再生しようとする登場人物たちの姿は、読後もしばらく心に残り続けます。誰かと生きるということの意味を、静かに、けれど確かに考えさせられた一冊でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。