当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

うつくしが丘の不幸の家/町田そのこ -感想- 不幸が訪れる家?で暮らす五つの家族の物語

読書感想です。今回は町田そのこさんの「うつくしが丘の不幸の家」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:うつくしが丘の不幸の家
  • 作者 :町田そのこ
  • 出版社:東京創元社(創元文芸文庫)
  • 頁数 :288P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 心温まる話が読みたい
  • 『幸せ』について考えたい
  • 物語の構成が素敵な小説を読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『海を見下ろす住宅地『うつくしが丘』に建つ、築25年の三階建て一軒家を購入した美保理と譲。一階を念願の美容室に改装したその家で、夫婦の新しい日々が始まるはずだった。だが開店二日前、偶然通りがかった住民から「ここが『不幸の家』って呼ばれているのを知っていて買われたの?」と言われてしまい……。わたしが不幸かどうかを決めるのは、家でも他人でもない。わたしたち、この家で暮らして本当によかった──。「不幸の家」で自らのしあわせについて考えることになった五つの家族の物語。本屋大賞受賞作家による、心温まる傑作小説。』引用元:東京創元社

感想

短編5章で構成されています。それぞれの章は独立した話でありながら一部に繋がりがある面白い構成になっています。「うつくしが丘」の一軒の家を舞台に様々な事情を抱えた住人の物語が描かれます。本のタイトルに『不幸』とありますが、自分にとっての幸不幸を考えることがテーマになっています。

心が痛む現実の厳しさもありながら胸を打つ展開、一筋縄ではいかないものの心温まるお話でした。各章で様々な現実の厳しさや理不尽が描かれ心を抉られるような思いにもなります。ただそれぞれが前向きになれるように話が進んでいきます。暗い面があるからこそ「幸せとは」という明るい部分が一際温かく見えるように思いました。

5章のお話はそれぞれ個々でも魅力的なのですが、全体で見た構成がまた素敵なんです。各章は花や実となりそれらを繋げる幹があり、全体で1本の木になっているようなイメージを持ちました。読めば言っていることがなんとなく伝わると思います。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓
使用感など書いた記事もありますので読んでみてください↓↓↓
kindle unlimitedを使った感想を率直に。おすすめできる?【レビュー・評価】

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

時系列を遡っていく構成になっていますがそれを表現する枇杷の木、信子さんとその家族がこの本を読んでいる間の心を温めてくれる存在でした。エピローグまで繋がる枇杷の木の巡り合わせにはぐっときました。しかし信子さんが飼っているのは何故亀なんでしょう。

信子さんは良い隣人であるだけではなく、彼女もまた複雑な現実を抱える人物でした。第一章の信子さんの言葉、それを知ってから読むとまた少し深みが増して見えました。「しあわせは人から貰ったり人から汚されたりするものじゃないわよ。自分で作り上げたものを壊すのも汚すのも、いつだって自分にしかできないの。」

毒親やDV夫など家庭問題てんこ盛りでそれぞれが度を超えた振る舞いをするのでとても腹立ちました。それぞれ最終的には収まったように終わりましたがそれでもモヤモヤが残るくらい苛々するものもありました。暗い部分が殊更暗い点もこの作品の特徴の一つかなと思いますが、表紙の絵や第一章までは穏やかに見えるのでギャップを感じてより心に刺さったのかもしれません。

以上が全体として印象に残った点です。続いてそれぞれの章について思ったことを書いてみます。

第一章(おわりの家)は他の章と比べて穏やかな雰囲気でした。嫌な噂が根も葉もないものであっても頭から離れなくなる気持ちはわかります。ただちょっと視点を変えれば全く違って見えるというものなのかもしれませんね。上にも書いた「しあわせは~」という信子さんの言葉が沁みます

第二章(ままごとの家)は小春がスカッとする気持ちいいキャラクターでした。その他のみんなが陰湿な雰囲気なので対比で輝いて見えました。しかし父親の心変わりが早すぎるのと母親が許しすぎなのにはモヤモヤが残りました。

第四章(夢喰いの家)は上に書いた信子さんのお話に加えて、蝶子さんの行動が感動的でした。家を出て夫の実家に行って夫を待つことに強い意志と夫への愛を感じました。並みの行動ではないですよね。そのように崩れかけたときに簡単に諦めずに一緒に乗り越えたいと思える姿が素敵です。

第三章(さなぎの家)と第五章(しあわせの家)は暗い部分が辛すぎました。
第三章の響子の境遇には胸が苦しくなりましたし、秀仁が来たときには私は頭の中でぶん殴ってました。
第五章の真尋の精神状態はかなり危うそうに見えましたが中途半端な救いではなく信子さんに救われたことには安心しました。

エピローグは第一章の続きであり時系列としては一番離れている第五章とも繋がっていました。巡り巡って繋がったことが枇杷の木でも表されていておしゃれな作りだなと感心しました。メランコリックな感情が抜けきれない中、エピローグのおかげで複雑ながらほっとするような読後感でした。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/うつくしが丘の不幸の家

まとめ

以上、町田そのこさんの「うつくしが丘の不幸の家」の読書感想でした。
穏やかな雰囲気を想像していましたがなかなかメリハリの利いた物語で示唆に富む1内容でした。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。