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お探し物は図書室まで/青山美智子 -感想- 風変わりな司書によるレファレンス

読書感想です。今回は青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」です。
2021年本屋大賞第2位の作品です。これまた表紙が可愛らしいですね。読んでから見るとさらに愛おしく感じられます。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:お探し物は図書室まで
  • 作者 :青山美智子
  • 出版社:ポプラ社(ポプラ文庫)
  • 頁数 :327

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 心温まる物語が読みたい
  • 希望を与えてくれるような物語が読みたい
  • 自分自身が何か探し物をしている
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。「本を探している」と申し出ると「レファレンスは司書さんにどうぞ」と案内してくれます。
狭いレファレンスカウンターの中に体を埋めこみ、ちまちまと毛糸に針を刺して何かを作っている司書さん。本の相談をすると司書さんはレファレンスを始めます。不愛想なのにどうしてだか聞き上手で、相談者は誰にも言えなかった本音や願望を司書さんに話してしまいます。話を聞いた司書さんは、一風変わった選書をしてくれます。図鑑、絵本、詩集……。

そして選書が終わると、カウンターの下にたくさんある引き出しの中から、小さな毛糸玉のようなものをひとつだけ取り出します。本のリストを印刷した紙と一緒に渡されたのは、羊毛フェルト。「これはなんですか」と相談者が訊ねると、司書さんはぶっきらぼうに答えます。 「本の付録」と――。自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。』

引用元:ポプラ社

感想

各章ごとに主役が変わりそれぞれが人生の悩みを抱えています。20~60代くらいまで、自分に重なる話があると思います。特に私は世代的にいくつかの登場人物の悩みが自分自身と重なり、目を背けたくなくような、胸を締め付けられるような思いをする部分が多くありました。

そんな悩みを解消するきっかけを与えてくれるのが図書室の司書さん。司書さんって人生の悩み解決とは一見結びつかないような気がしますね。そこを結びつける青山美智子さんの目の付け所がこの作品の大きな特徴になっています。

図書室にある「レファレンスコーナー」から物語は展開していきます。「レファレンスコーナー」という文字に見覚えはありますがあまりどういうものか意識したことがありませんでした。図書館におけるレファレンスとは「利用者の問い合わせに応じ、図書の照会や検索をする業務のこと」だそうです。この作品においても司書さんが行うのは確かにこの説明通りのことなのですが、この説明以上の意味合いを持っています。作中の司書さんが個性的なキャラクターなのも良いですね。独特な見た目で描かれ、また掴みどころがなく、一体何者なの?と興味を惹かれます。そしてその司書さんが選ぶ本にも仕掛けがありどんな意味があるんだろうとワクワクします。

どのお話も救いがあり、思わぬ場所に前を向けるヒントがあるのかもと希望を持てるようでした。ほんのちょっとの不思議が含まれるファンタジーのようにも見える作品です。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

どの章も同じリズムで話が進んでいくのがとても読みやすかったです。だんだんと司書である小町さゆりさんの「何をお探し?」を待ちわびている私がいました。登場人物たちが思う小町さゆりさんの例え、紹介されたリストに混じる一見脈略のない図書、一緒に添えられる付録、次は何だろうと気になってさくさく読み進められました。各章で小町さゆりさんが言う羊毛フェルトの説明部分も印象的でした。例えば第5章のでは、以下のようにテーマに沿った羊毛フェルトの特徴を言葉にしていました。このように、そのものが持つ特性を思わぬ部分で結びつけ、繋ぎ合わせる。そんな面白い視点はどのように見つけるのだろうと感心します。

『どんな形にも、どんな大きさにもなるんですよ。いかようにも無限で、ここまで、というのはないの』

登場人物たちの悩み事がとても想像しやすく、私自身も目を背けていたかもしれないような気持ちになって胸がきゅっとなる部分が多くありました。多くの社会人が抱えるジレンマみたいなものですね。この作品ではみんな最後に救われますが、それでも後を引くくらいその悩みが重たく感じました。私自身も小町さゆりさんのレファレンスを必要としているのかなと思ってしまいます。

印象に残った台詞を引用します。

『どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ』

小町さゆりさんの台詞です。一冊の本に対して感じることは人によって様々であることを常日頃感じています。読者としてただその本に書いてあることをそのまま受け取るということはなく、自分が今置かれている状況などから自分自身が作り出すフィルターを通して読んでいるからなのかもしれません。同じ本であっても読むタイミングによって感じ方が違うということはよくあります。価値のある読み方ってどのようにして生まれるんでしょうね?読書家さんたちの普遍的な悩み事かもしれません。そのようなことを見通して小町さゆりさんは本を紹介いるんでしょう。現実的ではなくても、そういう思いを持ちながら図書館でお仕事をされている方もいるのかなあ?と想像してしまいます。そうであったらとても素敵ですね。

『たとえば十二個入りのハニードームを十個食べたとして』
『そのとき、箱の中にある二つは「残りもの」何でしょうか』

これも小町さゆりさんの台詞です。例えば学生時代と社会人になってからを比べて一日に対する考え方が変わったような自覚が私はあります。将来的には定年退職後の正雄さんのように、あとの人生は消化試合みたいに思うかもしれません。この台詞にはハッとさせられました。彼も思った通りで残りも同じだけの価値があるはずです。日々の過ごし方を見つめなおせるように、心に留めておきたい言葉です。

青山美智子さんの作品は何作か読んでいますが、いずれも心温まりほっとするようなものではありながら、ちくちく心を刺す棘のようなものを持っているように感じます。この作品もその棘が大きな特徴の一つで、だからこそ多くの人の心に刺さり、そして癒してくれるものになっているように思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/お探し物は図書室まで

まとめ

以上、青山美智子さんの「お探し物は図書室まで」の読書感想でした。
何かのきっかけを求めて図書室へ行きたくなりました。こんな司書さんのいる図書室が近くにあったらなぁなんて思います。本選びで人生が変わるかもしれませんね。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。