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封印再度/森博嗣 -感想- S&Mシリーズ第5弾。複雑で単純で不可解な真相

読書感想です。今回は森博嗣さんの「封印再度」です。
S&Mシリーズ第5弾です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:封印再度
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :576P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリー小説が好き
  • S&Mシリーズが好き
  • パズルが好き
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『不可解な死と家宝の関係は?
「天地の瓢」「無我の匣」。香山家に伝わる2つの宝と死の秘密とは

50年前、日本画家・香山風采(ふうさい)は息子・林水(りんすい)に家宝「天地の瓢(こひょう)」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死をとげた。不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在にいたるまで誰にも解かれていない。そして今度は、林水が死体となって発見された。2つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る。』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

S&Mシリーズ第5作目です。

壺の中に壺の入り口よりも大きな鍵、鍵のかかった箱、壺を割って鍵を取り出してはいけない、というパズルを中心に物語が展開します。

個人的には今作はシリーズのこれまでの作品と比べて地味目であった印象です。特に前半はなかなか事件が起きず、物語として進展が見えないような少しの煩わしさは感じました。

とはいえ、上記のパズルは一見でも興味を惹きますし、萌絵が持ち前の個性でその周辺を探っていく様子は楽しく見ることができます。後半に物語が動き出すと雰囲気が変わり、様々な要素が複雑に交差し始めます。事件の”複雑さ”はこの物語の特徴になっています。それらの道筋が明らかになり迎える結末には、トリックが解かれるすっきり感はありながら、ここまでのシリーズ作品にも感じたことのあるWHYの意味深さに悩まされます。

また、犀川先生と萌絵の関係については衝撃的な展開がありました。萌絵の印象がガラッと変わってしまう恐れがあります。その点もこの物語の目玉の一つかなと思います。

またタイトルの封印再度(who inside)が秀逸ですね。読んだ後には、これ以上のタイトルはない、と思うほどこの小説を表すことに適しています。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

単品だと地味に感じてしまいますが、シリーズものの中の一つとしてこういう特色の作品がある、として見れば個性的な良作であるように思います。

事件自体はかなり地味に感じました。結末が序盤から示唆されていた自殺(フミが殺していた可能性もありますが)だったことは大きな要因かと思います。そもそも、結末は単純である、というのが今回の物語の肝の一つであり、地味になるべくしてなったとも言えるかと思います。

事件を複雑にしていた要素についてはちょっと違和感を感じる部分がありました。例えば、事件解明のキーとなるポイントとして、子どもが部屋の中を見てそこにある死体を「いない」と表現したこと、がありましたが子どもがそう言葉にしたことも、それを大人たちが鵜呑みにすることも、少し無理があるように思います。

ただ、それらのことは結局この物語上は些末なことであるため、あえて大味な内容にしたのかなとも思います。この物語の本当の肝は動機とパズルの解であると私は理解しています。

パズルの解はまさに理系トリックという感じで興味深かったです。これは知識がないので思いつきようがなく、そんなものがあるのか、という驚きでした。仕組みをイメージすることはできたものの実現可能なんですかね?

動機はまた独特でした。欠けることにより完成する美、己を滅するために生きる、己を生かすために滅する、というような表現がありました。林水は風采の死を美化し、それを追ってパズルを解いた先の死に向かいました。こう書くと浅薄に見えますが、仏画の模写をひたすら行う己を滅する精神のその先が、この自殺の模倣だったということかと思います。己を滅し、欠けることにより完成する美、、、その精神は今の私にはぼんやりとして捉えることができません。

林水の妻であるフミは夫の自殺をただ見て黙っていました。林水が最後に描いた自身の絵を自分だけ見て焼いてしまいました。フミの行動はそれを含めてこの自殺を芸術たらしめているようにさえ思えます。しかしその行動は、萌絵によるエイプリルフールの嘘と根本は同じと考えられないでしょうか。

萌絵が犀川先生についた嘘は受け入れ難く、萌絵の評価が転落するほどのものであると多くの人が感じたはずです。自分が手に入れたいもののために手段を選ばない、萌絵のその精神が犀川先生曰く「子どもである」として、いい大人がそんな手段を取るべきではないと感じます。フミも自身の行動は、林水の生を独り占めにしたかったから、であり、子どものようだ、と表現しました。自分が手に入れたいもののために手段を選ばなかったことをフミは自覚していました。萌絵とフミの行動は同じ精神のもとでの行動であるというように思えます。実際、フミの行動そのものだけ見れば一般的には不適切極まりないと思われるものです。それにも関わらず見え方がこれだけ違うのはなぜでしょうか。フミの行動もまた、己を滅し、欠けることにより完成する美、を表しているからかもしれません。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/封印再度

まとめ

以上、森博嗣さんの「封印再度」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。