当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

Xの悲劇/エラリー・クイーン <あらすじ・感想・考察> 「悲劇シリーズ」第1作。ここから始まる“論理と心理のせめぎ合い”

読書感想です。今回はエラリー・クイーンの「Xの悲劇」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:Xの悲劇
  • 作者 :エラリー・クイーン
  • 出版社:KADOKAWA(角川文庫)
  • 頁数 :448

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 本格ミステリが好き
  • 昔の雰囲気を楽しめる
  • キャラのクセが強い探偵が好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『ドルリー・レーン氏初登場! ミステリの古典が新訳で生まれ変わる。
結婚披露を終えたばかりの株式仲買人が満員電車の中で死亡。ポケットにはニコチンの塗られた無数の針が刺さったコルク玉が入っていた。元シェイクスピア俳優の名探偵レーンが事件に挑む。

引用元:KADOKAWA

感想

ミステリとして名作中の名作。

ニューヨークを舞台に起こった、不可解な毒殺事件。

現場には奇妙な仮面を被った犯人の目撃証言、密室のような状況、そして不可解な遺留品…。

警察もお手上げの中、元舞台俳優で変装の名人「ドルリー・レーン」が登場し、冷静かつ論理的に事件を紐解いていく。

シリーズ第一作として、後の作品にもつながる重要な一冊です。

本格中の本格

最初は少し古風な文体に戸惑いながらも、読み進めるうちにそのクラシックな雰囲気に引き込まれていきました。

特に印象的だったのは、犯人の動機とトリックがきちんと「人間の心理」と「論理の積み上げ」の両方から成立している点。

読者が犯人に辿り着けるだけの手がかりがちゃんと提示されているフェアプレイ精神も、ミステリ好きにはたまりません。

魅力的な探偵役

何より、探偵役のドルリー・レーンのキャラクターが魅力的でした。

聴力を失った元俳優という異色の経歴ながら、観察力と推理力で事件を切り開いていく姿がとてもスマート。

彼の過去や性格が物語の中でじわじわと明かされていく感じも、物語全体に深みを与えていました。

ボリューム・読みやすさ

・ページ数はそこそこあるけど、テンポはいい!
上下巻ではないけどありませんが内容はぎっしりした印象です。とはいえ、事件が起きてからの展開が早く、どんどん読ませてくれます。途中でダレる感じはありません。

・文体はちょっと古め。しかし慣れれば読みやすい
翻訳調ということもあり、最初はやや文体に違和感があるかもしれません。しかししばらく読んでると、そのクラシックな語り口がクセになってきます。逆にそれが作品の雰囲気づくりにもハマってるように感じます。

・登場人物は多めだけど、ちゃんと整理されてる
ミステリは登場人物が多くて混乱しがちですが、本作は割と整理されてて、「誰が誰だっけ?」となる場面はありませんでした。読者のための配慮がされてるように思います。

・“ながら読み”よりは、じっくり向き合うタイプ
推理に関わる描写やセリフが大事なので、のんびりコーヒーでも飲みながら読むのがおすすめです。サクサク読めるというより、「じっくり味わう」タイプの本だと思います。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

ロジックの組み立てがすごい

「理詰め感」がとても気持ちよかったです。レーンがただ推理を披露するだけではなく、“なぜ今このタイミングで話すのか”みたいなところまで全部計算されていて、無駄がなかったように思います。きっちりステップ踏んで説明してくれるため納得感がすごいです。

途中で何度もレーンが何かを分かっていながらそれを話さないという場面がありました。演出のためにもったいぶってるだけ?とかサム刑事やブルーノ検察官と同じように不審に感じていました。

しかし、「なぜ今言わないのか」とか「なぜこの証拠をここで出すのか」みたいな部分にも全て意味がありました。

ミステリーはたまに“演出っぽさ優先で、後から無理やりつじつま合わせてる感”が出る作品もありますが、本作はそれがありません。全部が「最初からこの順で進めるための構成だったんだな」と思えます。

また、読者に対しても「ここまでくれば気づける」というヒントを出してくれてるのが粋です。完全にフェアプレイ。自分で気づけなかった悔しさも含めて、本格の本格ミステリーに圧倒されました。

コルク+針+ニコチンの凶器について

とても印象的な凶器でした。即席っぽいのにとても怖いです。

しかし、現実にこれで人を死に至らせることはできるのでしょうか?

ざっくり調べた感じだと――

現実的には「可能だけど、かなり限定的」

ニコチンは実は猛毒

純粋なニコチンは、ほんの数滴で致死量に達するほど強力な毒です。皮膚からも吸収されるし、血流に乗れば神経系に強く作用するそうです。なので「針に塗って刺す」というのは理屈としては成立します。

でもかなりリスク&不確実性あり

現実だと、どれくらいの量が針で注入されるかがかなり不安定です。たとえば衣服で弾かれたり、針が浅くしか刺さらなかったりすると致死量に届かないかもしれません。犯行としては“成功率が低くてバレやすい”タイプなのかもしれません。

毒物としてのニコチンは専門知識も必要

毒性が高いとはいえ、扱いには高度な知識がいるようで、入手も簡単ではありません。だからこそ、作中で「これは計画的な犯行だ」という説得力にもなっています。

まとめると――

フィクションなので少し盛ってる部分もあるかもしれませんが、完全なトンデモってわけでもなさそうです。実際にやったら(やってはいけませんが!)危険で難易度高い犯行になると思われます。

犯人はなぜ脱獄したのか

犯人は本作の被害者3人に嵌められて捕まった過去があったわけですが、獄中では模範囚であったという話もあり、普通にしていれば出所できたはずです。

しかしわざわざ危険な脱獄をしてまでも事件を起こしました。

それは冷静に考えたら“非合理的”な選択です。なぜだったのでしょうか。

考えられることは、心のどこかでずっと復讐を温めてたものの、出所を待ってる間に自分の中で限界まで膨らんでしまった。理性を超えて、感情が「もう今しかない」という背中を押したのかもしれません。

また、脱獄=社会からの完全な断絶でもあります。もう“戻る場所はない”という覚悟を決めてるからこそ、ためらいもなく犯行に走れたのかもしれません。

模範囚という肩書きはあっても、それが“偽りの仮面”だったという皮肉も感じます。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/Xの悲劇

まとめ

以上、エラリー・クイーンさんの「Xの悲劇」の読書感想でした。

昔の本ですが、今読んでも面白く、むしろこの時代だからこそ書けた“舞台劇のようなミステリ”って感じがします。クラシックな本格ミステリに触れたいなら、これは外せない一冊です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。