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ファラオの密室/白川尚史 <あらすじ・感想・考察> 舞台は古代エジプト。壮大な世界観で謎解きに挑む

読書感想です。今回は白川尚史さんの「ファラオの密室」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:ファラオの密室
  • 作者 :白川尚史
  • 出版社:宝島社(宝島社文庫)
  • 頁数 :352P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 謎解きが好き
    密室や消失といった古典的なトリックを楽しめる人におすすめです。
  • 歴史や古代エジプトに興味がある

    神話や宗教、ピラミッドや冥界などにワクワクできる人におすすめです。小説を通して古代の空気感を味わえます。

  • 一風変わったミステリを読みたい人
    現代の刑事モノや日常系とは違う舞台設定に惹かれる人におすすめです。非日常の世界で変わった謎解きを楽しめます。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『紀元前1300年代後半、古代エジプト・・・・・・死んでミイラにされた神官のセティは、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができなかった。欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻ったが、期限は3日。ミイラのセティは、自分が死んだ事件の捜査を進めるなかで、やがてもうひとつの大きな謎に直面する。棺に納められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたというのだ。この出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が葬儀を否定したことを物語るのか?先王の葬儀の失敗はエジプトの危機に繋がる。タイムリミットが刻々と迫るなか、セティはエジプトを救うため、ミイラ消失事件の真相に挑む!

引用元:宝島社

感想

世界観と歴史浪漫

古代エジプトが舞台。神官セティが主人公です。彼は冥界で死後の審判を受けたものの、「心臓」が欠けていたため現世へ戻され、自分の心臓を探し求めることになります。その一方で、ピラミッドの玄室からファラオのミイラが忽然と姿を消すという二つの大きな謎が発生。それらが交錯し、古代エジプトを舞台にした本格ミステリが展開されます。

古代エジプトの宗教や文化が丁寧に描かれており、冥界や死後審判を信じる当時の人々の価値観が自然に物語に溶け込んでいます。セティの「心臓探し」は、文字通りのミステリとしてだけでなく、「魂の欠落」を求める旅のようにも読めて、哲学的でもあります。

ファンタジーな謎解き

古代のピラミッドという密室空間が舞台として巧みに使われており、失われたミイラの謎が読み応えがあります。冥界と現世、人の死と蘇りが交差する中で、「不可解な密室」を合理的に解き明かすミステリが際立ちます。

感情と人間ドラマ

歴史浪漫に包まれていながら、セティをはじめとする登場人物の人情味や葛藤も丁寧に描写されています。古代の「常識」に縛られながらも、現代的ともいえる内省が混じり、それがドラマとしての深みを生み出しています。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

ミステリーというより、壮大なファンタジーとして

本作は「密室ミステリ」として紹介されていますが、読み進めるうちに感じたのは、これは“本格ミステリ”というよりも、壮大なファンタジーや神話的ロマンを楽しむ物語なんだな、ということです。

冥界から蘇った神官セティが自らの「心臓」を探す、という設定自体がすでに非現実的で、どこまでが現実でどこからが幻想なのか、あいまいなまま進んでいきます。この時点で「論理的にトリックを解いていく」タイプのミステリを期待していた自分としては、少し肩透かしを食らったような感覚もありました。

ピラミッドの密室トリックやミイラの消失といった仕掛けもあるにはありますが、それが物語の中心というよりは、“神秘的な雰囲気”を強調するための舞台装置のように感じられました。だから、正直ミステリとしてはあまり頭に入ってこなかった部分もあります。

しかしその一方で、物語としてはとても惹きつけられました。古代エジプトという舞台、冥界の描写、神官としてのセティの葛藤や信仰の揺らぎなど、幻想的かつ重厚な世界観がしっかりと作られていて、読んでいて没入感がありました。

つまりこれは、「論理的な謎解き」を楽しむというよりも、「生と死」「魂と信仰」といったテーマにじっくり向き合う、精神的な旅路としてのミステリなんだと思います。そう思って読めば、むしろかなり味わい深い作品でした。

セティの真相について

ラストでセティが女性であったということが明かされました。“どんでん返し”かのように演出されていましたが、ぱっと思ったのは物語にどう関係してたの?ということでした。

セティの“性別”が持つ意味について考えてみると、おそらく単なる性別のカミングアウトではなく、セティの魂のあり方=“本来の自分”の回復を象徴するものだったのかなと思います。セティは物語を通して、「心臓(魂)が欠けている自分」を探し続けていました。これは物理的な心臓を探しているようでいて、本来の自分自身、ありのままの自分を取り戻す旅だったのかもしれません。

そう考えると、彼女が“男性として生きていた女性”だったという真相は、

・古代エジプトという男社会の中で「神官」として生きるために、性を偽る必要があった。

・その偽りが、文字通り“自分の心臓を失う”原因となっていた。

というように、アイデンティティの回復を象徴する終盤だったように感じられます。

ただそれがミステリとして何かに効いてたかというとそれは特にないのかもしれません。真犯人の動機が変わるわけでも、トリックに意味が出るわけでもないかと思います。なので、ミステリ的な最大の真相というよりは、感情面やテーマとしては重要な要素として受け取るのがいいのかもしれません。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/ファラオの密室

まとめ

以上、今回は白川尚史さんの「ファラオの密室」の読書感想でした。

死者の国という非日常を舞台にしつつ、私たちの日常の中にある大切な気持ちにスポットライトを当てた作品です。軽妙な語り口と、そこから生まれる感情のコントラストが胸に残り、読後には「今、生きていることの尊さ」を改めて感じました。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。