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アリス殺し/小林泰三 -感想- アリスの世界観とミステリーの融合。不思議で奇妙で狂気的。

読書感想です。今回は小林泰三さんの「アリス殺し」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:アリス殺し
  • 作者 :小林泰三
  • 出版社:東京創元社(創元推理文庫)
  • 頁数 :378P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 「不思議の国のアリス」の世界観が好き
  • 不思議なミステリーを体感したい
  • グロ耐性が少しはある
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗栖川亜理(くりすがわあり)。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、亜理の通う大学では玉子(たまご)という綽名(あだな)の研究員が屋上から転落して死亡していた──その後も夢と現実は互いを映し合うように、怪死事件が相次ぐ。そして事件を捜査する三月兎と帽子屋は、最重要容疑者にアリスを名指し……邪悪な夢想と驚愕のトリック!』

引用元:東京創元社

感想

ファンタジーなミステリー
ミステリー小説です。ただし設定はかなりファンタジーです。ファンタジーとミステリー、夢と現実が上手く融合して個性的な物語となっています。私としては新しい読書体験でした。

有名児童文学のオマージュ
タイトルや表紙からも読み取れますが、「不思議の国のアリス」のオマージュが多く含まれています。キャラクター同士のすれ違う愉快な会話など「不思議の国のアリス」らしさを感じるような部分がたくさんあります。よく知られたキャラクター名などの固有名詞が出てきますがあまり説明はされないので「不思議の国のアリス」を知らないとぽかんとしてしまう部分があるかもしれません。

驚きのトリック
そんな世界観の中で作り出される犯行のトリックはファンタジーな設定ありきとはいえ驚きのものでした。というよりファンタジーだからこそできるトリックであり個性が活きた面白い仕掛けになっています。所謂本格ミステリーとは一線を画すこの作品ならではの驚きを体験できました。

ポップさとグロさのギャップ
「不思議の国のアリス」のような奇妙で愉快な場面が続く中、事件の様相が描かれる部分にはグロい描写が少なくありません。私個人的には事件の様相もポップであってほしかったような気も少ししますが、そのポップな世界観と狂気とのギャップにより、単調になるようなことがなく、また、「不思議の国のアリス」らしくも感じさせる部分になっているようにも思います。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

「不思議の国のアリス」を彷彿とさせる愉快なやり取り
序盤からキャラクター同士のすれ違いの会話に「不思議の国のアリス」の雰囲気を感じてワクワクしました。そんな感じでふわふわした夢の世界と現実とでポップな感じのミステリーが始まるのかなと思いきや、作品のタイトルから感じる雰囲気通りの殺伐としたミステリーが待っていました。

固有名詞のわかりにくさは魅力か?
「不思議の国のアリス」などルイスキャロル作品を読んでいないとわからない固有名詞がそれなりに出てくるので、知らない人がこの作品を読むとどう映るんだろうというのは思いました。

「ジャバウォックの詩」や「スナーク狩り」はナンセンス文学1と呼ばれるそうでそもそも意味がわからないものなので、それを知っていても大概ですが、知らなければ尚更余計な混乱をしそうです。しかしそれもナンセンス文学の要素を取り入れた世界観の表現でもあるのかなと私は受け取りました。

「スナークはブージャムだった」という一見意味不明な言葉が登場しましたが、その後白兎が消される際にブージャムが登場して、何か関連があるのか?とか気になったりしてしまいました。

犯行のグロさ
終盤にメアリーアンの犯行の様子が明らかになりますが、動機が軽いのは不思議の国の住人っぽさを感じました。犯行はいずれも方法が狂気的でグロかったですね。特にどれがというのも言い難いくらいどれも印象的でしたが、強いて言えばメインキャラクターに対する犯行はキャラクターへの思い入れも込みで恐怖を感じました。

ビルがバンダースナッチのいる部屋に閉じ込められた時の絶望感。暗い狭い部屋で恐怖の存在がそばにいると想像するだけで震え上がってしまいます。一方でビルの反応がいちいち間が抜けているのでなんとなく雰囲気が緩和されて不思議な感覚でした。ビルが遺したダイイングメッセージは秀逸でしたね。

『公爵夫人が犯人だということはあり得ない』

枷を付けたまま巨大化させられるアリスの状況は、「不思議の国のアリス」で知っているアリスが巨大化するイメージが頭にあることで何が起きるか想像できてしまう恐怖がありました。また、アリスは物語の都合でなんとか助かるんだろうと高を括って読んでいたため、バラバラになるまで描かれたことに衝撃を受けました。そしてその後トリックが仕掛けられていたことに気付き、また衝撃を受けることになります。

夢と現実が交差するトリック
夢と現実のどちらが本体であるかとか、アリスのアーヴァタールが誰かとか、何重にも重ねられた仕掛けにまんまと騙され驚いてしまいました。警部、刑事が不思議の国で誰なのか発覚する場面は爽快でした。帽子屋と三月兎なのかな、と途中までは思っていましたがまさかの重要人物でしたね。

不思議の国での死が地球へリンクするというパターンが繰り返されたので逆パターンはどうなんだろうというのは気になっていましたが、逆パターンは成立しないという説明部分がぼんやりしていて、トリックありきでぽっと出たご都合設定ということかなと少しもやっとしました。私がきちんと読み切れていないだけかもしれませんが。

赤の王様(レッドキング)の夢であり、目覚めたら地球は終わりという結末は夢オチっぽく、今までの話が茶番に見えてしまわなくもないです。メアリーアンはそれを知っていてなぜこんなことをしてまで地球での扱いを変えたかったのでしょう?とはいえ、今自分がいる世界もそうなのかもしれない、という小説の中と現実とを交差させるような表現としては面白いなと思いました。

『不思議の国のことが童話で語られているような地球 ~ ひょっとして、あなたが主人公の童話かもよ、アリス。』

そしてメアリーアンの死刑の様子は夢も現実もともにかなりグロかったですね。してきたことに対する罰としてはやり過ぎでもないように思ってしまいますが、想像しうる罰の中でも最もひどいものと言えるくらいなように思います。よくこんなこと思いつくなぁと感心すらしてしまいます。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/アリス殺し

まとめ

以上、小林泰三さんの「アリス殺し」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。