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本を守ろうとする猫の話/夏川草介 <あらすじ・感想・考察> 本好きが抱えるジレンマに立ち向かう

読書感想です。今回は夏川草介さんの「本を守ろうとする猫の話」です。
米国、英国をはじめ、世界35カ国以上で翻訳出版されているロングセラー小説です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:本を守ろうとする猫の話
  • 作者 :夏川草介
  • 出版社:小学館(小学館文庫)
  • 頁数 :288P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 本が好き
  • 本をより好きになりたい
  • 爽やかな物語が読みたい

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

「お前は、ただの物知りになりたいのか?」
 夏木林太郎は、一介の高校生である。幼い頃に両親が離婚し、さらには母が若くして他界したため、小学校に上がる頃には祖父の家に引き取られた。以後はずっと祖父との二人暮らしだ。祖父は町の片隅で「夏木書店」という小さな古書店を営んでいる。その祖父が突然亡くなった。面識のなかった叔母に引き取られることになり本の整理をしていた林太郎は、書棚の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。トラネコは、本を守るために林太郎の力を借りたいのだという。

 お金の話はやめて、今日読んだ本の話をしよう--。』

引用元:小学館

感想

ファンタジー小説

主人公の高校生である夏木林太郎が、古書店でともに暮らしていた祖父の死をきっかけに孤独を抱える中、喋る猫とともに「本を守る」冒険を通じて成長していく、心温まるファンタジー小説です。

爽やか、軽快、読みやすい

章立てが明解でテンポよく読み進めることが出来ます。

内容や登場人物に嫌みが一切なく、友人とのちょっとした青春要素などもあり、爽やかな読み心地です。

本への向き合い方を考える

主人公は、本好きが抱えるジレンマに立ち向かっていきます。

例えば、ただたくさん本を読むことがえらいのか?素早くあらすじを追えればいいのか?など。本が持つ力やその価値は何なのかを主人公と共に考えていきます。

本好きにとって共感の嵐であると同時に、普段本に触れる機会が少ない人々にとっても、本の魅力を再発見するきっかけになると思います。

作中に多くの有名な作家名や作品名が登場します。またそのオマージュやパロディが織り込まれているとのことで、それを見つけてみたり、他の作家さんや作品に興味を持ったりという楽しみもあります。

 

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

本好きが抱えるジレンマについて考える

迷宮が提示するどの問題も真実であり、林太郎の答えが正解だとは私は思えませんでした。

ただそれは当然で、これらの問題は明確な答えがあるものではありません。自分はどう思うかということを考えることに意味があります。

ということで、それぞれについて改めて考えてみます。

第一の迷宮「閉じ込める者」
・より多くの本を読むことにこそ価値があるのか
・一冊の本を繰り返し読むことは時間の浪費なのか

林太郎は本に真摯に向き合えていないことを指摘しています。

たくさんの本を積み上げて、本の力がまるで自分のものになったかのように誇示していると。

読書が好きであるが故にたくさん読むことに注力してしまう傾向は、私も自覚があります。

同じ本を繰り返し読むのは時間がもったいないようにと感じてしまうことも否定は出来ません。

本を読むことは、単に知識を得るだけではなく想像力や思いやりを育む行為である、というのはその通りで、もっと一冊の本に時間をかけて向き合ってみようかなという気持ちになりました。

本には大きな力がある。けれどもそれは、あくまで本の力であって、おまえの力ではない
お前はただの物知りになりたいのか?

第二の迷宮「切りきざむもの」
・人間はあまりに忙しく、世の中に山のようにある本を読み解く時間はとても与えられていない
・読書の効率化が求められている
・今の時代は、難解な本は、難解であるというだけで、もはや書としての価値を失う

「そんな読み方は音楽を早送りで聴くのと同じ」という答えは、言いたいことはなんとなくわかるものの、ごり押しな印象がありました。音楽と本で特性があまりに違うので比較対象としてはピンときません。

「本を読むことは、山に登ることと似ている」というのはわかります。

ただ、読書という山登りが人並み以上に好きな人なら、高い山に挑戦することに楽しみを見いだせると思いますが、多くの割合の人はそれだけの力は費やせないと感じるでしょう。

「効率的な読書」は大衆へ目を向けており、ある意味では道理にかなっていると言えます。

この小説で林太郎たちが大切にしている”本と真摯に向き合う”という考えには沿わないものですが、一方で世間に目を向けてもらうという意味では有効な手段なのかもしれません。

ただ、シンプルな私の気持ちとしては、あらすじや要約だけじゃもったいない、本ってこんなに面白いのに、時間を費やすだけの価値はあると思うよ、と言いたいです。

第三の迷宮「売りさばく者」
・売れる本を売る
・出版社に必要なのは、”世界に何を伝えるべきか”ではない。”世界が何を伝えてほしいと思っているか”を知ること
・安っぽい要約やあらすじがバカみたいに売れる
・心理も倫理も哲理も誰も興味がない。ただただ刺激と癒しだけを求めている

本に真摯に向き合いたい者として、「切りきざむもの」と「売りさばく者」の悪循環により本が本来持つ力が失われていくことを危惧しているものかと思います。

この迷宮が提起するものも第二の迷宮と同様に大衆に対してだったり、ビジネスとしてなら道理にかなっています。

「本をつくる人なら、本が好きなら、本は消耗品だなんて言うべきではない」というのはそうであってほしいのは間違いありませんが、現実問題の解決にはなりません。

その悪循環により、過去には作り出されていたような力を持つ本が現れなくなるということであれば、それは悲しいことです。本の本質を保つことと、その他を満たすことの両立はとても難しいことなんだと考えさせられます。

最後の迷宮
・理想と現実の違いについて
・長い年月を越え、世界中で読まれてきた本さえ、本当に真摯に向き合ってくれる人に出会うことはなくなっている

ここまでの三つの迷宮も、林太郎の答えに従うとやはり本の本質とは離れた外面は損なわれてしまいます。

そしてそれは人間にとって、企業にとって大事である場合もあります。

最後の迷宮に対する林太郎の答えは問いへの答えとしては納得いくものではありませんでした。

ただ、「本は”人を思う心”を教えてくれる」というのは本が持つ力の一つとして確かにそうかもと気付かされました。

最後の迷宮は女性の正体も気になるところですね。二千年…”世界で一番読まれている本”…とくると単純に考えればやはり聖書でしょうか?

まとめ

本が持つ本質って何だろうということを林太郎は語ってくれて、本を読む上で軽んじていたことや見過ごしていたことがあることに気付けました。

私としては、もう少し一冊一冊に向き合うことを大事にしようかなという気持ちになりましたし、改めて、読書を通じて人生を豊かにしていきたいと思えました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/本を守ろうとする猫の話

まとめ

以上、夏川草介さんの「本を守ろうとする猫の話」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。