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今はもうない/森博嗣 -感想- S&Mシリーズ第8弾。シリーズのファンなら必ずハマる。

読書感想です。今回は森博嗣さんの「今はもうない」です。
S&Mシリーズ第8弾です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:今はもうない
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :544P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 前作までのS&Mシリーズ作品を読んだ
  • S&Mシリーズが好き
  • ミステリー小説が好き
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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5
読み応え
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5
過激表現
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5

あらすじ

『嵐の山荘で起きた2つの密室殺人事件!
隣り合った部屋で死んだ美人姉妹。40歳の私は、西之園嬢と推理する。

避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

S&Mシリーズ第8弾で異色作
犀川先生と萌絵のシリーズ第8弾です。異色と書いたものの犀川先生と萌絵が登場することに変わりはなく、第7弾から異色、異色と続いてしまって、ただのバリエーションの中の一つでしかない気がしてきました。同一シリーズの中でまだこんなパターンもあるのかと飽きさせない引き出しの多さに感心します。

密室、ただし理系ミステリーではない
あらすじにもある通り、クローズドサークル的な状況で起こる密室事件が物語の中の軸となっています。今作は事件やその解決に理系っぽさがなく、そういう意味ではS&Mシリーズらしさは薄いかもしれません。ただシリーズ中の作品であるという特色はここまでのシリーズ作品で最も強いです。矛盾したことを書いていますが、読むとこれがどういう意味かは分かっていただけるのではないでしょうか。

シリーズのファン向け
前作以前のシリーズ作品を読んでいない方は今作はまだ読まずに置いておいて、前作以前を読んでから今作に臨むようにしてください。今作の特徴から今作単独では十分に楽しめないと思われます。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

感想・解説
一見、朝海姉妹の密室事件が本編かと思いますがそれはもう一つの仕掛けの隠れ蓑になっている、という構成でした。シリーズ読者が驚くのはその部分、笹木と西之園嬢が何者かというところですね。

朝海姉妹の密室事件
この事件自体は動機が浅かったりその動機含めて推理が想像の域を出ないということもありあっさりして見えますが、作りは面白いなと私は思いました。

前提
・自殺or他殺 由季子(姉)
・明らかな他殺 耶素子(妹)
・娯楽室の小窓→映写室(一方通行の法則)
・娯楽室、映写室ともにドアは内側から閉められ、その他の出入り口は無い。(仮説中で否定されている)

時系列
①娯楽室で由季子が自殺を図るも、耶素子と鉢合わせてしまう(西之園嬢が聞いた悲鳴はこの時のもの)。揉み合いの末に由季子が耶素子を殺す(娯楽室に耶素子の死体)。
②由季子は娯楽室のドアを閉め、小窓から映写室へ向かうも映写機が邪魔で通れず。一度娯楽室から映写室へ。映写機をずらし、再度娯楽室へ。もう一度娯楽室はドアを閉め、小窓から映写室へ入る。
③由季子は映写室のドアを閉め、薬による自殺(映写室に由季子の死体)。薬の注射器は映写室の換気扇から捨てている。

この状態であれば、動きを遡ることで事件の道筋を追うことが可能。ただしこの後、次のことが行われる。
④滝本による死体の入れ替え。(第一発見時より前ではなく、橋爪の指示で滝本が単独で2人の死体にシーツを掛けに行くタイミングで死体を入れ替え、着せ替え。)

・他殺死体が映写室
・自殺or他殺死体が娯楽室
こうなると映写室で殺人が行われたことになるが、一方通行の法則などにより殺した後の犯人の動きが成り立たない。(第一~第四の仮説)

・第一の仮説(笹木)
映写室に犯人が隠れていた。
→西之園嬢が隠れていなかったことを確認済み。
・第二の仮説(石野)
由季子が小窓から映写室にいる耶素子を殺し、娯楽室で自殺
→2人が協力することが必要となるが理由が不明。入れ替わりの説明がつかない。
・第三の仮説(清太郎)
娯楽室の窓は外から閉めることが可能。屋根から煙突で橋爪の仕事部屋は繋がっている。
→問題は映写室の密室でありその点は解消されない。
・第四の仮説(橋爪)
映写機のレンズを取り外して娯楽室↔映写室を行き来。映写室で由季子が耶素子を殺し、娯楽室で自殺。
→レンズは取り外せなかった。

死体の入れ替えによりこれだけの仮説が立てられ、成り立たなかった。逆に、死体の入れ替えが行われたとしか考えられなくなっていたというのが犀川先生の指摘。

その他考察
・笹木が入れ替わりを知って気分が悪くなるという極端な反応
→笹木が怪しいと見せるためのミスリード。初めに死体を見た時からそこまでの間に死体が入れ替えられたということに気付いた?

・西之園嬢の第五の仮説(笹木犯人説)
→物理的にはまったく不可能とは言えないにしてもやや無理がある、且つ想定される動機や人間関係などの背景が実態とあまりにそぐわない。

笹木と西之園嬢
今作は萌絵の叔母である睦子さんの、佐々木夫妻の馴れ初め話だったということですね。幕間の犀川先生と萌絵のやり取りとの時間軸のズレについては違和感を持ちやすかったと思います。主なところだと、橋爪の屋敷が「今はもうない」という萌絵の発言がありましたが、タイトルにも繋がる今作のポイントを示していたと思われます。

笹木の語りで大部分の物語は進んでいきますが、かなり怪しげな描かれ方をしていました。有名な叙述トリックを思い浮かべる方も少なくないのではないでしょうか。しかしただ笹木の自分を卑下する性格が表れているだけで、それもミスリードの1つでした。

名前の賭け、諏訪野の電話で笹木が聞いた名前はそこにいた西之園嬢を指しておらず、別にいた当時五歳の萌絵の名前でした。それをそこにいる西之園嬢の名前と勘違いしたわけですね。

作中の西之園嬢は萌絵だとしても違和感がない気性や振る舞いで私もすっかり騙されました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/今はもうない

まとめ

以上、森博嗣さんの「今はもうない」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。