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掏摸/中村文則 -感想- 自らの手で運命に抗う天才スリ師

読書感想です。今回は中村文則さんの「掏摸」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:掏摸
  • 作者 :中村文則
  • 出版社:河出書房新社(河出文庫)
  • 頁数 :192P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 犯罪や闇社会が扱われるような暗い雰囲気の小説が読みたい
  • スリリングな物語が読みたい
  • 様々な解釈が生まれるような構図に興味を持てる
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
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3
4
5
読み応え
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過激表現
1
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3
4
5

あらすじ

『東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」――運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。
その男、悪を超えた悪――絶対悪VS天才スリ師の戦いが、いま、始まる!!』

引用元:河出書房新社

感想

スリって感じで書くと掏摸なんですね。カタカナで目にすることが多いような気がします。

腕の良いスリ師が主人公。犯罪を生業とする人物たちを中心に描かれるというのが特徴のひとつです。これだけでわかるとおり暗い雰囲気の作品です。中村文則さんによる作品のイメージ通りという印象です。

ページ数は多くなく、文章はとても読みやすいのでさらっと読むことができます。かといって内容もさらっとしているかというと全くそうではなく、重厚感があり密度の濃い内容になっていると感じました。

とある危険な仕事をこなさなければならないという状況に迫られ奮闘する主人公、その先に待つ結末は、という筋がとても分かりやすくスリリングな物語です。スリを実行するシーンはどれもその状況やテクニックが細かく描かれており緊張感を感じるとともにそのノウハウに感心してしまいました。

加えて大きな特徴の一つだと思ったのが登場するキャラクターたちの構図です。主人公、彼をコントロールしようとする木崎。彼らが持つ理念は一般的とは全く言えず様々な解釈が持たれる部分かと思います。そして主人公が度々目にする謎の塔。これらのようなぱっと理解できない複雑な要素が入り混じった構図には物語の流れ以上に何らかの意味が含まれているようで、それがこの作品に奥深さを感じさせるように思います。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

主人公には少年時代からスリを行う必要があるような普通でない人生を送ってきた、というくらいの背景しかなかったように思え、何故子どもに気持ちを入れ込んでしまうのか、自殺した恋人がどう彼に影響しているのかがイマイチわかりませんでした。ただ、それらの点が彼に人間味を与え、スリ師でありながら何故か救いがあってほしいと思えるキャラクターになっていました。

あとがきの「文庫解説にかえて」で中村文則さんは、第16章の部分がこの小説全体の核になっている、と仰っています。第16章は何度も読み返しましたが、主人公が内面に抱えることを抽象的に描かれており捉えどころがありません。それをどう受け取るかでこの作品の評価が分かれそうです。私はこの意味深さについて考えたくなるくらい引き込まれました。

続きが気になる終え方になっていましたが、姉妹作「王国」があるということで、そちらも近いうちに読みたいと思います。

読者が各々解釈することになる以下2点について、私の解釈を書いてみます。

<木崎の存在>
木崎も1人の人間として描かれているので、そこまで絶対的な力を持つことには違和感がありますが、木崎の台詞「そもそも、俺は一体、何だったのか。」ともあるように、1人の人間という存在として表現されているものではないように思います。塔と対比の存在なのでしょうか。個人に直接影響を与えてくる、本人も言うようにある種の神のような存在のように見えます。

<主人公にとっての掏摸、塔の存在>
主人公が目にする塔ですが、「そんな事したら罰が当たる」と言うときの罰を与えてくる存在、何かに頼りたいときに漠然と祈る先にいる存在、または社会の流れのような抗うことができない目に見えない力、そのような個人の手が及ばず一方的に何かを押し付けてくるように思えるものをイメージしました。それらも塔も同様に実際に個人に何かを与えてくることはありません。直接影響を与えてくる木崎とは対比のような存在のように見えます。
普段、私もそうですがその存在を意識することはほとんどありません。都合のいいときに祈ったり、悪いことはそのせいにする程度のことです。主人公はそうではなくその存在を度々意識し、その存在により引かれたレールが見えるような世界に居心地の悪さを感じていたように見えます。「入ってはいけない領域に指を伸ばす」「あらゆる価値を否定し、あらゆる縛りを虐げる行為」であるスリを自分自身の手で行うことで、その抗うことのできない存在に必死に抵抗し、自由を手にできるように思えた。スリが自身に馴染みきったとき、主人公の意識からは「塔」を消すことができた。ただ結末では、自分自身の運命を自分の手ではない何かに委ねることとなり、再び塔が見え、その存在を意識することになった。という感じでしょうか。

皆さんからは木崎や塔、その他主人公を取り巻くキャラクターたちやその構図をどう解釈しましたか?読者さんたちの意見を聞いてみたくなりました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/掏摸

まとめ

以上、中村文則さんの「掏摸」の読書感想でした。
中村文則さんならではの雰囲気を持つ作品でどんどん気持ちが引きずり込まれて行ってしまいます。癖になる感覚です。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。