当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

スロウハイツの神様/辻村深月 -感想- 緻密に描かれる人間模様と伏線

読書感想です。今回は辻村深月さんの「スロウハイツの神様」です。
辻村深月さんの小説を読むならこの作品から、と紹介されていることがあるかと思います。その理由も簡単に紹介します。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:スロウハイツの神様
  • 作者 :辻村深月
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :(上)368P(下)488P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 辻村深月ワールドに飛び込みたい
  • 感動的な人間模様が描かれた物語を読みたい
  • 緻密な構成による伏線回収の爽快感を味わいたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――あの事件から10年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。』引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

中心人物となる赤羽環が集めたスロウハイツの住人たちの人間模様が描かれます。

読んだ後には色々と考察をしたくなりましたそんな作品です。

上下巻に分かれボリュームがそれなりにあり、低い温度で大部分の物語が進みます。特に前半は物語が進むと言うより細かくスロウハイツの住人の内面や関係が描かれます。上巻まるまる退屈に感じる方もいるかもしれません。ただそれはあくまで終盤へ向かうための土台作りです。当然そのままでは終わりません。伏線が散りばめられており終盤でどう回収されるかというのがこの作品の肝になっています。終盤の伏線回収は驚きあり感動ありで爽快でした。

登場人物がみんなクリエイターであるためかそれぞれが独特な感性を持っており、普遍的な心情ではないように思う部分もありました。作り手としての熱意を皆がそれぞれの形で持っており辻村さんの作家としての思いがいくらか込められているのかなと勘ぐってしまいます。

特徴的な内面を持つ人物が多いことと物語の構成が相まって、一見会話や反応が飛躍して見えるシーンが度々あります。自分が読み飛ばしてるのか、理解が追い付いていないのか、と不安になり何度も同じ箇所を読むようなことがありました。ただそのまま読み続けると直後で説明があったり後から回収されるので、途中からはそういう構成なんだと思いながら読みました。緻密なストーリーであるからこそ細かい要素の中に一度で読み切れない部分があったようにも思います。もう一度読んだら大きく印象が変わりそうです。

ちなみにですが、辻村深月さんの一部の作品は登場人物がリンクしていることから、読む順番を考慮した方がいいそうですね。講談社文庫が「辻村ワールドすごろく」として順番を紹介しています。今回紹介している「スロウハイツの神様」はスタート位置にあたります。

  1. スロウハイツの神様 (V.T.R)
  2. 島はぼくらと
  3. 家族シアター
  4. 凍りのくじら
  5. 子どもたちは夜と遊ぶ
  6. ぼくのメジャースプーン
  7. 名前探しの放課後
  8. 冷たい校舎の時は止まる ※デビュー作品
  9. ロードムービー
  10. 光待つ場所へ
  11. ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓
使用感など書いた記事もありますので読んでみてください↓↓↓
kindle unlimitedを使った感想を率直に。おすすめできる?【レビュー・評価】

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

中心人物であるチヨダ・コーキと赤羽環の関係の伏線回収には感動しましたお互いに心の支えになっていたという相思相愛ぶりに、恋愛とは違う”愛”を感じ幸せな気持ちになりました。『コーキが環に「お久しぶりです」と言った』『コーキは記憶力が良い』という描写から過去に何かあったんだろうなとは推測できましたが、コーキによる発言の多くがその過去に絡んでいるまでは思わず。環を追いかけるコーキはちょっとストーカー感あるなと思ったら上巻でそのことも発言していました。些細な描写がどんどん繋がっていき話の盛り上がりとともに気持ちが昂りました。

スーこと森永すみれについて『何かに依存しなければ生きていけない』という性質を周りから指摘されていましたが、物語の終わり際にはそうではなかったのではという描写がありました。環や正義は自分のために努力できるタイプで、スーやコーキは誰かのために努力できるタイプ。個人の特性と周囲の環境がうまくハマったときに実力が発揮されるもので、スーと正義はお似合いのように見えて実はスーにとっては才能が潰されてしまう環境だったということでしょうか。周りからはそれが分かりづらいし、自分を客観的に見ることも難しい。現実にもよく起こっているであろうジレンマが示されていたように思います。

加々美莉々亜についてはそこに環、本物のコーキの天使ちゃんがいたことでピエロになってしまった可哀想な子でした。ミスリード役として存在感はあり彼女のおかげでスロウハイツ住人の団結が見られたわけですが、それだけのための存在だったのでしょうか?彼女にも前向きになれる展開があるのかなと思っていたのでもやもやが少し残っています。

狩野はダークウェルと関わっていそうとわかる描写がちらほらありましたが、狩野→可能→can able→きゃん えいぶる→かんえいぶ→幹永舞、には初めは気付きませんでした。正義が序盤にカンエイブって誤読してましたよね。細かな伏線に感服です。
極端に優しい世界を求める姿が逆に歪んで見える狩野でしたが、そうではなく極端な光と闇を表現することでバランスを取っていたということでしょうか。環から散々言われても飄々としていられるのは自信によるものなのか、何を言われてもそうせざるを得ないということなのか。

感想といいながらほとんど考察になってしまいました。ただそういうタイプの作品なのかなとは思います。他の読者さんとどこがどう繋がってたかなどを共有したくなります。もう一度読んだら序盤の印象は大きく変わり色々なことに気付けそうです。再読不可避です。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/スロウハイツの神様(上)

読書メーター/スロウハイツの神様(下)

まとめ

以上、辻村深月さんの「スロウハイツの神様」の読書感想でした。
正直前半はなかなか読む手が進みませんでしたが後半はそんな気持ちを消し去り読み返したくなるほど圧巻でした。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。