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殺戮にいたる病/我孫子武丸 -感想と解説・考察- グロさと驚愕の展開に呆然…

読書感想です。今回は我孫子武丸さんの「殺戮にいたる病」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:殺戮にいたる病
  • 作者 :我孫子武丸
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :368P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • グロさのあまり、人に勧めようという作品ではないかも…
  • ただミステリーとしては秀逸
  • グロ描写に耐性があり精神が安定している方で有名ミステリー作品を読みたい方なら👍
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。叙述ミステリの極致!』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

ホラー?ミステリー?
ホラー要素が圧倒的に強いですが、ミステリーとしての作りが本作の大きな魅力です。

あらすじにもある通り、犯人はわかっている状態で始まります。犯人の視点と周囲の人物の視点が交互に描かれる形式です。誰がやったのかはわかってる、犯人視点から何を思い、どのように行われたのかもわかっている。何がミステリーなんだ?と思いますよね。

その点についてはネタバレ無しには全く触れられませんが、色々な意味で驚きの展開が待っています。ミステリー好きは避けて通れない作品かもしれません。

目を背けたいグロテスク1な描写
この作品で目に付くのは犯人視点のグロテスクな描写。人によっては読むに耐えないものであるかもしれません。最後まで読まなければ醍醐味が味わえない作品ですが、そこが大きな難関になる可能性があります。

ただ、最初から最後まで独特の緊張感があり、また作りの面白さから、先が気になる、怖いもの見たさの気持ちで案外読み進められるなと私は感じました。

最後まで読まなければただグロテスクを感じるだけになってしまいますので要注意です。

呆然としてしまうような読後感
衝撃の展開に呆然とし、読んだ後、もう一度読み直したいような読み直したくないような複雑な気持ちになります。なかなか味わえない感覚ではあります。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

グロテスクな描写に胸焼け
蒲生稔の犯行描写は見るに耐えられませんでした。だんだんエスカレートしていく様も生々しいです。私自身ホラーに馴染みがないためなかなか刺激的な体験でした。

蒲生稔の思考は全く理解できませんが、精神科医の教授の分析は興味深かったです。タナトス・コンプレックス、死の本能。教授の説明からその一端を感じることはできた気がしますが、ネクロフィリアに繋がるような感覚はやはり理解できません。知る必要があるのかないのかわかりませんが、興味深くはありました。

ここまでグロテスクな描写が必要だったのか、と思ってしまいますが、この後書くこの作品の全体像やトリックを印象付けるという意味では十二分な役割を果たしているようには思います。

雅子の行動もある意味グロテスクでしたね。息子の行動を全て把握しようとする様子は異常で、これはこれで別の事件に繋がりそうでした。それも真相へのヒントでありつつ、目線を逸らせる仕掛けにもなっており良くできているなと感心します。

簡単に解説・考察してみる

物語はエピローグから始まります。
逮捕される蒲生稔。
犯行場面を見て通報した樋口。
蒲生稔と関係があると思われる雅子。
これらの人物の視点でこのエピローグへ向けた物語が進んでいきます。

叙述トリック
読者が衝撃を受けるのは雅子のこの台詞ですね。

『ああ、ああ、何てことなの!あなた!お義母さまに何てことを!』

読者はそこまで蒲生稔は雅子の息子だと誤認しています。そこまでの稔の行動から次は雅子が殺されるのではと思っていたところで、この台詞により稔は雅子の夫で最後の被害者はその母であったことが判明します。

樋口の視点
探偵役です。稔は大学生であるという思い込みにミスリードしていたように思います。結果的に島木かおるを囮にする作戦により進展が生まれました。そして混乱が始まります。稔は逃げているのにそこには死んでいる雅子の息子。そこから驚愕の真相へ向かっていきました。

島木姉妹との関係はあくまで樋口を真相へ向かう探偵役とするためのものでしかないのですかね?2人とも樋口に想いを寄せるというのはちょっと安っぽいなと思いました。

蒲生稔の視点
彼の視点は彼の思考と犯行描写でほぼグロですね。結末に対して私が後から気付いた仕掛けとしては、
・大学へ通っている。
 ⇒ミスリードであり、大学生であると誤認させる。
 ⇒「一回くらい休講にしてもかまわない」という台詞は大学側であることを示唆。
・被害者から「オジン」と呼ばれる。(大学生に対して「オジン」は違和感がある。)
・羽振りの良さ(大学生として見ると違和感はあるがギリギリ現実的)
・犯行時に切って持ち帰った物は全て庭に埋めてあった。

若い女性たちが簡単に付いていくことに違和感がありますが、描写からは年齢よりもだいぶ若く見えてかなりスマートな印象の男性であるというように見えます。

蒲生雅子の視点
雅子には夫、息子1人、娘1人がいることがまずわかります。あとは基本的に息子に執着する雅子の様子が描かれますが、後から気付いた仕掛けとしては、

・『~両親と住んでいた一軒家も、五年前に義父が他界してからは夫の名義になっている。』という文章から、義母は家にいることを示唆している。
・「息子の部屋のごみ箱」から血のついたビニール袋が見つかっている。
 ⇒稔の視点と相違がある。息子が庭のビニールに気付いて移動させている。息子は父の犯行を知っており、行動を追いかけていたことがわかる。
・夫にほとんど注目しない。(息子が家を不在にする時間帯に同時に夫もいないことに注目していない。)

雅子の視点がトリックの肝であり、家庭を顧みない夫、母による息子への過剰な執着、家庭の歪さにより雅子の息子が異常な精神状態に陥ったと思い込んでしまいます。読者として雅子の行動に異常さを感じつつも、雅子と同じ方向へ息子への思い込みが誘導されていきます。

全体像
「父親の不在」が隠れたテーマとなっているそうで、新装版の笠井潔さんの解説がとてもわかりやすかったです。現代日本の家庭の背景、という風刺でもあると思うと強烈な印象ですね。

ちなみに私は読んでいる最中は上記のような仕掛けには全く気付かず、雅子の台詞で世界がひっくり返り呆然としました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/殺戮にいたる病

まとめ

以上、我孫子武丸さんの「殺戮にいたる病」の読書感想でした。
未読でグロ耐性のある方は手に取ってみていただいてもいいかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。