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流星ワゴン/重松清 <あらすじ・感想・考察> 干渉できないタイムスリップから何を得られる?

読書感想です。今回は重松清さんの「流星ワゴン」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:流星ワゴン
  • 作者 :重松清
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :480P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 家族との関係に悩んでいる
  • 過去に後悔がある人
  • 心温まる小説が好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『38歳、秋。ある日、僕と同い歳の父親に出逢った――。
僕らは、友達になれるだろうか?

死んじゃってもいいかなあ、もう……。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして――自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか――?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

不思議なワゴン

人生の岐路に立たされた主人公が過去と向き合い、家族の絆を再発見する物語です。

主人公の永田一雄は、仕事のリストラ、妻からの離婚要求、そして息子の家庭内暴力と、人生のどん底にいました。

そんな彼の前に、5年前に交通事故で亡くなった親子が乗る不思議なワゴンが現れます。

一雄はそのワゴンに乗り込み、過去の重要な場面を巡る旅に出ます。

家族との過去と向き合う

この物語の中心テーマは、「家族の関係性」と「過去との向き合い方」です。

一雄は旅の中で、家族との関係に改めて向き合います。

親子の絆の複雑さや、過去の選択が現在に与える影響を考えさせられます。

また、過去を変えることの難しさや、運命の不可逆性も描かれています。

一雄は過去の出来事を変えようと試みますが、思うようにはいきません。

変えられない運命を知りながら、過去から何を得ることが出来るのか。

設定としてはありがちながら、独特な展開となっています。

ファンタジーだけどリアルで感情移入してしまう

設定はファンタジーっぽいですが、物語の本質は親子関係や人生の選択のリアルな話なので、SFが苦手な人でも大丈夫かと思います。

重めのテーマではありますが、主人公の心情が丁寧に描かれており、気持ちが入り込みやすいです。

そこそこボリュームのある作品ですが、ストーリーが引き込む展開なので、スラスラ読めるタイプだと思います。

難しい言葉を使わず、感情描写が丁寧で読みやすいです。

会話が多めなのもテンポよく読めるポイントです。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

過去に戻れても現実は変えられない

タイムスリップものは「過去を変えて未来をよくする」展開が多いですが、この作品はは「過去と向き合うことで自分の心が変わる」というアプローチになってるのが独特でした。

カズオはワゴンに乗って過去の出来事をもう一度体験しますが、どんなに頑張っても現実は変えられません。

しかし、その過程で「自分は父と、妻と、息子とどう向き合うべきだったのか」を改めて考えさせられます。

つまり、過去を変えられないからこそ、自分自身の受け止め方を変えるしかないっていうのが、この物語の肝になっており、興味深い展開でした。

自分がカズオと同様の機会を与えられたとしたら…あまり嬉しいとは思えないかもしれません。

都合よく見えるのは…

カズオは最初どん底にいるように見えましたが、最後は思ったよりもスムーズに前向きな方向に進んでいった感じがありました。

そこに少し「ご都合主義っぽさ」を感じてしまう気もしました。

ただ、考えてみるとカズオの現実が直接変わったわけではなく、彼自身の「受け止め方」が変わったことで、状況が変わり始めたとも言えるかもしれません。

たとえば、息子の問題や妻との関係も、彼自身が「もう終わりだ」と思っていることがそのまま読者の私にも伝わって絶望的に見えました。

「絶望的な状況」だったのは確かですが、彼が「もうダメだ」と思い込んでいた部分もあったように思えます。

過去を巡る旅を通して、「実はすべてが完全に手遅れというわけではない」と気づいたことで、同じ現実でも違う見え方になったのかもしれません。

そう考えると、「現実は変わらないが、自分が変われば見え方が変わる」というテーマが最後まで貫かれてるとも言えるように思います。

ただ、あれだけ苦しんでいたわりに、最後は意外と前向きに進めたように見えるのは、ちょっと都合よく感じる部分があるのも確かで、もう少し現実の厳しさが残っていてもよかったかもとも思います。

妻の思いと家族の未来について

カズオの妻・美代子は、初めはただの浮気者のように見えていましたが、複雑な性質を含んでいました。

カズオの視点では「美代子が自分を拒絶している」と感じていましたが、実際に抱えている事情は異なっていました。

その認識の違いが最後に少し解消されたことで、2人の関係性は少し変化したように見えます。

こう考えると、最初にカズオが感じていた「完全に終わった夫婦関係」も、実はそうではなくて、お互いが思い込みで壁を作ってしまっていたという面もあったのかもしれません。

しかし、お互いに抱えた気持ちがすぐに消えるわけではなく、カズオが「それでも一緒にいよう」と決めたとしても、美代子の中の葛藤が解決しない限り、また同じ問題が起こる可能性はあります。

そう思うと、この物語のあと、二人が本当にやっていけるのかは微妙なところです。

ただ少なくとも物語のラストでは「もう終わりだ」と思い込んでいた状態からは抜け出せていました。

それだけでも、カズオにとっては意味のある旅だったのかなとは思います。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/流星ワゴン

まとめ

以上、重松清さんの「流星ワゴン」の読書感想でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。