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流浪の月/凪良ゆう <あらすじ・感想・考察> 「善意」はときにとても残酷になる

読書感想です。今回は凪良ゆうさんの「流浪の月」です。

2020年本屋大賞受賞作品です。映画化もされている有名作品ですね。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:流浪の月
  • 作者 :凪良ゆう
  • 出版社:東京創元社(創元文芸文庫)
  • 頁数 :356P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 心の機微をじっくり味わいたい

  • 世間の“普通”や“常識”に違和感を覚えたことがある

  • 重たいテーマにも向き合える

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままに――。だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、わたしは再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切なひとさえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。

引用元:東京創元社

感想

誘拐事件?

9歳の更紗は、ある日ひとりの大学生・文に誘われて、その家に居候することになります。

しかし、それは世間から見れば「誘拐事件」とされ、二人はそれぞれ加害者・被害者というレッテルを貼られることとなります。

世間の常識や“正しさ”の物差しでは測れない、人と人との関係を描いた作品です。

ページ数は文庫版で約300ページくらい。

章立ても多すぎず、スッと読める構成になってるので、あまり時間をかけずに読み進めることが出来ます。

文章はとても丁寧でやわらかく、文体も平易だから読みやすいです。

静かに激しく訴えかけられる

この物語は、とても静かで、けれど内側に激しい感情を抱えているように感じました。

特に、他人の善意や「正しい言葉」がどれだけ暴力になり得るかというテーマに、胸が締めつけられました。

更紗も文も、自分の気持ちを言葉にするのがとても下手で、その不器用さが痛々しくもあり、でもどこか共感できました。

重めのテーマ

テーマが「世間からの偏見」「トラウマ」「生きづらさ」みたいなセンシティブな内容なので、“読みやすいけど感情的には重い”というタイプです。

セリフや地の文に派手さはありませんが、その分、登場人物の心の動きがじわじわ染みてくるように感じます。

感情を読み取ることが好きな人には、とても刺さると思います。

逆に、「スカッと爽快な展開を求めてる」「ハッピーエンドが絶対じゃないとイヤ」って人には、ちょっとしんどいかもしれない。

しかし、多くの方にとって心に残る一冊になるのではと思います。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

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事実と真実

この作品のいちばん核心にあるテーマだったかと思います。

世間が見る「事実」——たとえば「少女が大学生の家にいた」という事実——それだけをもとに、「助けなきゃ」「守らなきゃ」という“正しい行動”を取ろうとします。しかし、当の本人たちにとっては、その「事実」の裏に、他の誰にもわからない「真実」があり、むしろその時間こそが、心の救いになっていました。

そう考えると、「善意」はときにとても残酷になります。“相手のため”という建前で、自分の正義を押しつけてしまうことの怖さがあります。本当に相手のことを思うなら、ちゃんと耳を傾けて、真実に目を向けないといけないということを改めて考えさせられました。

更紗は一時「被害者じゃなきゃいけなかった」という状況にあったことも象徴的でした。

事実が真実を押し潰す場面は現実にもあります。こういうテーマは、自分自身の身近な人間関係にもリンクしてきますし、読みながらつい、自分が今まで誰かに“事実”だけで接してなかったかと振り返りたくなります。

亮は正しさの象徴?

亮の存在は、ある意味で「正しさの象徴」でもあり、世間一般の“善人像”を体現してるようなキャラクターのように見えました。(ただしDVは論外です。)

被害者を守りたいという気持ちは本物だったはずです。しかしそれが、相手の真実を理解しようとしないまま突っ走ってしまったことで、結局は更紗を苦しめてしまっていました。更紗にとっては「自分の本当の声を聞いてくれなかった人」でした。そこにあるのが、「事実は事実だけど、真実とはズレてる」っていう、すごく複雑で切ない構図です。

結局亮と更紗の関係はあんなことになっても、最後まで亮に真実を伝えることは出来ませんでした。そこには真実を示すことの難しさが表れていたように思います。

「事実か真実か」を慎重に計ることの大切さは、第三者こそが意識すべきです。表面的な情報だけで判断せず、「その人にとっての意味」を想像すること。たとえ理解できなくても、決めつけないこと。それを教えてくれる静かな警鐘のようなメッセージだったと思います。

希望を感じたラスト

文と更紗の関係は、世間から見ればずっと「おかしい」と言われ続けてきました。

しかし、最終的に二人がまた一緒に過ごせるようになり、またそれを“ただの偏見なしで”理解してくれる第三者である梨花の存在があることが、救いになっていました。

梨花は大事なポジションにいたように思います。

文と更紗の関係は、恋愛でも友情でもなく、でも深い絆があります。

それを他人がラベリングせずに、ただ「そういう関係もあるんだな」と見てくれる人がいることの価値。

それが、この物語のラストに向けて浮かび上がってくる優しいテーマのように感じます。

「誰かに理解されること」は、生きるうえでやっぱり大きな支えになります。

真実を知ってくれる人がそばにいるって、それだけで人は安心できるんだなとすごく感じました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/流浪の月

まとめ

以上、凪良ゆうさんの「流浪の月」の読書感想でした。

社会に理解されない関係や、簡単には言語化できない痛み。それらを無理に説明せず、淡々と描いているからこそ、読後にいろんな感情が静かに残り続ける。そんな余韻のある一冊でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。