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夏のレプリカ/森博嗣 -感想- S&Mシリーズ第7弾。異色作。前作と同時系列で起きた誘拐事件。

読書感想です。今回は森博嗣さんの「夏のレプリカ」です。
S&Mシリーズ第7弾です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:夏のレプリカ
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :520P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリー小説が好き
  • S&Mシリーズが好き
  • 前作の『幻惑の死と使途』をもう読んだ
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『封印された夏の日の記憶!
眩い夏、不可解な誘拐事件、蘇る過去
真実は、偶数章だけで明かされる。

T大学大学院生の簑沢杜萌(みのさわともえ)は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられた。杜萌も別の場所に拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧(もうろう)とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは?『幻惑の死と使途』と同時期に起こった事件を描く。』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

シリーズ中の異色作
S&Mシリーズといえばその名の通り犀川先生と萌絵の二人が中心に描かれますが、この作品はそうではありません。前作に登場した簑沢杜萌が主役となっています。前作と同じ時系列で起きている出来事であるため、前作で大活躍していた萌絵や犀川先生は当然そちらの事件の方で行動中という状況です。中心に描かれる人物が異なるという点で、シリーズ中では異色な作品となっています。

理系ミステリーではない、密室ではない
さらに、S&Mシリーズといえば「理系の世界を感じる要素」「密室で起きる事件」をイメージするかと思いますが、この作品はどちらにも沿わないものとなっています。シリーズのスピンオフ的な位置付けなのか、これまでの作品とはがらっと印象が異なります。

しかしシリーズ中の作品として引けを取らない
そのような特徴的な位置付けの作品であるからこその作りとなっていて良い意味で裏切られます。結末は必見です。複雑なのに整っている、静かで淡々としているようで熱を持っているようなこれまでの作品にもあった独特な雰囲気がこれまでの作品以上にあったように感じます。杜萌の心情に関わる描写が多く、杜萌が持つ背景や個性がこの作品の魅力である雰囲気を作り出しているように思います。

犀川先生と萌絵は?
彼らも登場します。前作でも途中で萌絵と杜萌のやり取りがありましたが、その辺もちゃんとリンクしています。そのような特性もあり、少なくとも前作である『幻惑と死と使途』は読んでいた方が楽しめるかもしれません。どのような形で登場するかはここには書きませんが、スピンオフに本編のキャラクターが登場するみたいなちょっとしたワクワク感を与えてくれます。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

叙述トリック
杜萌の行動を追う形で物語は進んでいきますがキーとなる場面では重要な事実が隠されていた、いわゆる叙述トリックのような作りになっていました。とはいえ杜萌がなんか怪しくない?というのはずっと付きまとっていたため、真犯人として想像できる範囲ではありました。

真相が明かされる杜萌vs萌絵のチェスシーンは雰囲気が最高でした。天才vs天才という構図、それぞれの複雑な心情、勝負の緊張感。一度も勝ったことがない杜萌。一度も負けたことがない萌絵。私としては印象に残る場面としてシリーズ中でも屈指のものとなりました。

ミステリーではあるけれど…
何となく真犯人が想像できる範囲であったり、動機が浅いというのは感じました。赤松の前の女だから殺した?そこにもっと何か背景があったのでしょうか。杜萌という底が知れない人物であるからこそ、もっと意味深なものも期待してしまっていたのかもしれません。

また簑沢素生についても謎が多くモヤモヤが残るまま終わってしまいました。結局殺人事件には関りがなく、部屋にいなかったのは死んだわけでもなく全く別の話ということですよね?杜萌との軋轢は出来事としてはインパクトがありました。飼っていた犬と杜萌の出来事と結びつけて素生も父による何かがあったのかと想像したりしましたが、しれっと最後に登場してきたので、結局それが何にどう関係していたのかわからず。犯人探しにおいて杜萌から目を逸らすため、杜萌以外の簑沢家が関わっていると思わせるためのミスリードだったということでしょうか。

それでもとても好みの作品だった
謎解きだけに注目するとそれほど目立った印象にはならないものの、私はこの作品がシリーズ中でも上位なくらい面白かったし好みでした。自分で書いておいてなんですが何故なんでしょう?

杜萌の背景や心情に関わる描写が多く、事件がなかなか進展しないので下手すると退屈しそうですがそういった感覚は私はありませんでした。むしろ、杜萌の背景や心情に関わる描写が作り出す雰囲気に大きな魅力を感じています。

杜萌は序盤からいくつかの裏がある人物として描かれており、杜萌から目が離せないように引き付けられていました。杜萌の心情や背景が丁寧に描かれますが、それでも謎めいて見える杜萌に魅了されていきます。そしてたどり着く杜萌vs萌絵。萌絵とは親友であり紙一重の違いしかない存在であるという関係性も相まって、そこまでのすべてがこの場面に収束するようで気持ちが昂りました

事件に関係ない場面も多かったですが、シリーズものの強みとしてこれまでの作品という背景があるため、書かれていること以上に想像できることが多くそこもまた退屈に思うことはなく楽しく読めました。佐々木睦子のやり取りは面白くて好きです。

素生は目が見えないというところから見えるものについての考え方みたいなものが時折出てきました。そのような本質を追及するような思考に触れるのもこのシリーズにおける楽しみの一つになっています。

『透明って、どんな感じかな……。人間の目も透明なの?』

『色彩は絶対的な概念ではないからね。物体が持つ性質でもないし、観察者の極めて主観的な評価に過ぎない。つまり、普遍的でもない。だから、その一瞬でしか評価できないわけだし、好きとか、嫌いとか、言ったとたんに、無意味になるよ』

今作では犀川先生は登場するもののほぼ関わってこないので、ただのとても変わっている人みたいなお笑い役っぽくてちょっと微笑ましかったです。

余談
巻末の解説の質がひどいと思ったのは私だけでしょうか。余韻が壊されてしまうので、読むなら余韻に浸りきってからにすればよかったです。あえて書く必要はないかもしれませんが書かずにはいられないほど。私が読んだのは旧カバー版ですが、新カバー版でも同じなのかな?

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/夏のレプリカ

まとめ

以上、森博嗣さんの「夏のレプリカ」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。