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何者/朝井リョウ -感想- あなたは自分のことが見えていますか?第148回直木賞受賞作

読書感想です。今回は朝井リョウさんの「何者」です。
第148回(2012年下半期)直木賞受賞作。映画化もされていますね。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:何者
  • 作者 :朝井リョウ
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :352
  • 書影出典:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 就活を舞台にした物語に興味が湧く
  • 人間観察が好き
  • 直木賞受賞作である有名小説を読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。』

引用元:新潮社

感想

就職活動が舞台
就職活動に取り組む学生たちが主要な登場人物です。そのうちの一人である拓人の視点で、様々な姿勢で就職活動に向き合う登場人物たちの様子が描かれます。私はまさにこの物語で描かれているイメージのような就職活動を経験してきたので、その時のことを思い出しました。ESやテストセンター、グループディスカッションなどの単語もそうですが、登場人物たちが思っていることや言葉に共感出来て、私もそう思っていた!という部分がたくさんありました。

人間観察
物語の視点となる拓人は分析が得意。ともに時間を過ごすことになる登場人物たちのことを観察しているような形で物語は進んでいきます。意識高い系だったり、妙に大人ぶっていたり、そういう人っているよねーという個性的な登場人物たち。私としては拓人が俯瞰するように見て思うことの多くに共感しながら読み進めることになりました。

表と裏
就職活動を経験したことがある方ならわかる方が少なくないと思いますが、「表と裏」を常に意識させられるような歪な状態を強いられる感覚。この物語には様々な形の「表と裏」が表現されています。思っていることとやっていること、言葉にする理想と乖離する現実。ありのままが描かれているようなリアリティを感じ、だんだんと何をどう見ればいいのか、何が本質なのかがわからなくなっていくような感覚に陥っていきます。

あなたには彼らがどう見えるか
終盤には衝撃を受けるような展開が待っています。少なくとも私はそう感じました。鼻につく、それはどうして?間抜けに見える、それはどうして?どうあるべきだということが示される小説ではありません。ただただ様々な人間の形がそこにあり、自分はどこにいて何を思うか。読後には「何者」というタイトルが迫ってくるような感覚がありました。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

就活を思い出す
私は就活を終えた途端に食べ物が食べられなくなるという「あ、無意識のうちにこんなにストレス感じてたんだ」という思い出があります。そんなことを思い出しながら読んでいました。例えば以下のような思いは、私も同じような不確かさを感じていました。自分と向き合いながらも確かな答えみたいなものが何もなく、何度も自分を否定しながら再構築するようなストレスフルな期間だったなと改めて思います。

『確固たるものさしがない。ミスが見えないから、理由がわからない。』

痛い人?
作中では拓人視点で理香や隆良、ギンジは「痛い人」と見えるような描かれ方でした。現実にもそういう風に見える人っていますよね(自分自身を棚に上げている可能性がありますが)。そういう人たちを見て、どうして、どういうつもりでああいう行動や発言をしているんだろうとか私もたびたび思っていました。瑞月が隆良に対して意見した内容は、隆良に感じていた違和感を的確に表していてスッキリしました。

『そんな言い方ひとつで自分を守ったって、そんなあなたのことをあなたと同じように見てる人なんてもういないんだよ。あなたが歩んでいる過程のことなんて誰も理解してくれないし、重んじてない、誰も追ってないんだよ、もう』

『十点、二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって。』

そういう意味では私も拓人の見方に同意しながら読み進めていました。終盤の理香との対峙までは。

矢面に立たされる
この作品の肝だと思う部分です。拓人視点に共感しながら読んでいた私は、理香は私に向かって話をしている、理香と対峙しているのは私だ、と急に矢面に立たされる衝撃を受けました。理香の言葉があまりにも図星だったわけです。自分に都合のいい見方だけをして見て見ぬふりをしている部分が確かにあり、隆良とギンジの違いに気付けないほど想像力も足りていなかったのです。

『いい加減気づこうよ。私たちは、何者かになんてなれない』

『自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。』

『自分はあんなカッコ悪いことをしなくたっていいはずだって、心のどこかで思ってる』

『だから、ギンジ君の定期公演だって見に行けないんでしょう?カッコ悪い姿のまま本当にあがくことができている人を見るのが怖いから。本当は自分にもその方法しか残っていないってことを、思い知るのが怖いから。』

見え方が変わる
終盤の怒涛の展開が過ぎると、この小説全体の見え方がまるで変わってしまったことに気付きます。一見まるで異なる登場人物たちのようでしたが、自分自身という同じ問題を抱えているのは同じで、その向き合い方が異なっているだけでした。描かれてきたみんなの行動の裏にはそれぞれが抱える葛藤があり、それを知った上で再度読み直したら初めて読んだ時とは異なって見えてしまうのです。普段自分が見ているのはほんの一面でしかないということを思い知らされます。

就職活動はあくまで就職活動であっても、自分と真剣に向き合うのに最適なタイミングではあるのかもしれないですね。私は正直その時期に自分自身について考え抜いたという自信は全くないのですが…。最後の最後、拓人が自分と向き合おうとする姿勢が垣間見れた部分には、私も自分を見つめ直そうかなと仲間意識のようなものを感じました。

おまけ
ここまで書いてきて感想の中に光太郎が登場していないことに気付きました。なんとなく浮世離れしているような存在で、みんなが地べたに這いつくばりあがいている横を颯爽と歩いていくようなイメージです。自分に対して無味無臭過ぎてあまり思うところも出てこなかったのかもしれません。ただ、最初から最後までイメージが変わることがないのは彼だけなんですよね。

あと、私は文庫版を読んだのですが巻末の三浦大輔さん(劇作家)の解説で笑ってしまいました。「なるほどね」が最高でした。私が読んできた中では頭一つ抜けて好みの解説でした。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/何者

まとめ

以上、朝井リョウさんの「何者」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。