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何もかも憂鬱な夜に/中村文則 -感想- あなたの中にある、表に出ることのない精神をさらけ出す

読書感想です。今回は中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:何もかも憂鬱な夜に
  • 作者 :中村文則
  • 出版社:集英社(集英社文庫)
  • 頁数 :200P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 暗い雰囲気の物語が好き
  • 生と死など重たいテーマの物語が好き
  • 精神が安定している
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『施設で育った刑務官の「僕」は、十八歳のときに強姦目的で女性とその夫を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している――。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。
芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。』

引用元:集英社

感想

全体の雰囲気はタイトル通り、暗くじめじめしています。さらっと読めるボリュームではありますが、内容はヘビーです。

刑務官である主人公を通して死刑制度の曖昧さや矛盾、生と死といったテーマを深堀していきます。ただ単に物語の展開を追うというより、登場人物たちの心情や思想を読むという感覚です。

主人公は独特な感性の持ち主で、そんな主人公の生い立ちもこれらのテーマに深く関わってきます。主人公だけでなく、若くして殺人を犯し死刑判決を受けた者、自殺した友人、など普通でない精神の生と死に対する姿勢が生々しく描かれます。その中には自分が現実で抱えたことがあるものの表に出ることのなかったような思想がさらけ出されているようで、私にとってもハッとさせられる部分がありました。

最後まで鬱々としているかというとそうではなく、そのような不確かさを知って何を思うか、どう生きるかという一つの道筋を示すような面も含まれています。

終始暗い雰囲気ではありながら、希望を持てるようなわずかな言葉によって、読み終えた後は何故か清々しく、生きることを前向きに考えたくなるような気持ちになっていました。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

”健全な思考”など、人が作り出した基準でどうあるべきと考えて読むのではなく、もっと根本的に、今ここにある1人の人間としての生き方・死に方をどう考えるか、を考えることが必要なように思います。

大きく分けて主人公、真下、佐久間、山井という危うい精神を持つ人物たちについて、根本は等しく、その生い立ちの違いにより分岐したそれぞれの現在があるという全体像なのかなと解釈しています。

主人公(と恵子)と施設長
主人公は施設長の存在から影響を受け、やや危うさは残りつつも比較的真っ当な精神を後から身に付けることができているように見えます。施設長の思想や言葉がこの物語上の希望の道筋でした。

素晴らしいものを知ることから得られるもの。読書好きからするとその一端は感じ取れているような気がしますが、向き合う姿勢によって”意味”が変わってくるのかもしれません。

『自分の判断で物語をくくるのではなく、自分の了見を、物語を使って広げる努力をした方がいい。そうでないと、お前の枠が広がらない。』

『現在というのは、どんな過去にも勝る。そのアメーバとお前を繋ぐ無数の生き物の連続は、その何億年の線という、途方もない奇跡の連続は、いいか?全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい』

『考えることで、人間はどのようにでもなることができる。……世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる。』

真下
その性格や思春期という時期のせいもあり施設長や他からの影響を受けられず、自分のみと向き合い続け破滅の道しか見えなくなってしまった。真下のノートの内容は、直接自分と重ねることは難しくても、そこにある精神は表に出ることのない自分と同調する部分があるように感じます。

『何かになりたい。何かになれば、自分は生きていける。そうすれば、自分は自分として、そういう自信の中で、自分を保って生きていける。まだ、今の自分は、仮の姿だ。』

『こんなことを、こんな混沌を、感じない人がいるのだろうか。善良で明るく、朗らかに生きている人が、いるんだろうか。たとえばこんなノートを読んで、なんだ汚い、暗い、気持ち悪い、とだけ、そういう風にだけ、思う人がいるのだろうか。僕は、そういう人になりたい。本当に、本当に、そういう人になりたい。これを読んで、馬鹿正直だとか、気持ち悪いとか思える人に……僕は幸福になりたい。』

主人公が持つ海の記憶は真下が言った通りなのかなと私は思っています。それは真下と主人公が共通した内面を持つが故に辿り着くことのできた結論であり、主人公も自分と同類であるということを真下は突き付けたかったように見えます。

佐久間
根本の精神に従順な存在というように見えました。自身の危うさを理解しつつも、その危うさはあくまで倫理や道徳から見たものである。そこからあえて遠ざかり、自分を解放する。自身が求める部分以外では取り繕えるというのも、根本の精神に対して極めて従順であることを示しているように思います。

主人公は佐久間が自身と紙一重な存在であると理解をして、受け入れ難い思いを持ったように見えます。佐久間に対して感じる嫌悪感は、むしろ佐久間が言っていることに一理あると思ってしまっている証拠なのかもしれません。

『虐げられてるばかりでなく、この世界に生まれてきたのなら、元を取らなければ』

山井
私としては最も痛ましい存在であるように感じました。何も知ることが出来なかった、ただ知らなかった、知りたかっただけで、それを知るための手段も知らなかった。それを行うことが何をもたらすかを知らなかった。何もかも知ることができなかった。

最後の主人公への手紙からは、主人公との違いが”知る機会があったか”のみの紙一重の差でしかないことを感じます。その差によって刑務官と死刑囚という立場で相見えることになったのです。それでも山井は間違いなく死刑になるべきと思えるでしょうか…起きた事実は覆せないものの私はそこに不確かさを感じてしまいます。

死刑制度
主任の死刑執行時の経験と死刑に対する考え方は、私はこれまで真剣に向き合ったことがなかったため衝撃を受けました。不可避の矛盾、死刑という人殺しの理由が不確かであること。多くの国が死刑制度を無くしているのにも色々な意味があり、日本では行われていることについて自身の考えは持っておくべきだと気付きました。

しかし、マスコミや世間が騒ぐことによる影響を受けるというのは本当なのでしょうか…それが本当であるならその曖昧さを持ったまま人間が判断すべきことなのかは甚だ疑問です。(賛成か反対か意見を持つためには、私にはもっと知ることが必要です。)

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/何もかも憂鬱な夜に

まとめ

以上、中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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