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マチネの終わりに/平野啓一郎 <あらすじ・感想・考察> 人生の“もしも”が胸に刺さる、大人の恋愛小説

読書感想です。今回は平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:マチネの終わりに
  • 作者 :平野啓一郎
  • 出版社:文藝春秋(文春文庫)、毎日新聞出版
  • 頁数 :480P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 静かな感情を描いた恋愛小説が好き
    派手な展開や劇的な愛の告白ではなく、すれ違いや内面の揺らぎを丁寧に描く作品を好む方にぴったりです。

  • 大人になってからの「もしも」を考えることがある
    「あのとき別の選択をしていたら…」という思いに心当たりがある人には、登場人物の葛藤が強く響くはずです。

  • 音楽や芸術が人生に与える影響に関心がある
    蒔野が奏でるクラシックギターや、洋子の言葉に込める想いは、芸術が人の生き方にどう関わるかを考えさせてくれます。

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった――
天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。
四十代という〝人生の暗い森〟を前に出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に
芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死など、現代的テーマが重層的に描かれる。
最終ページを閉じるのが惜しい、至高の読書体験。
第2回渡辺淳一文学賞受賞作。

引用元:文藝春秋

感想

大人な恋愛小説

クラシックギタリストの蒔野聡史と、フランス在住のジャーナリスト小峰洋子。

二人はあるきっかけで出会い、立場も違う中で惹かれ合っていきます。

しかし、それぞれに背負うものがあり、すれ違いや距離に悩みながら、なかなか思うようにはいきません。

舞台は東京、パリ、ニューヨーク…。

国を超えて再会と別れを繰り返すなかで、人生の意味や時間の重みが、静かに胸に響いてくる物語です。

色々なテーマが内在

本作の魅力は、単なる恋愛小説にとどまらず、登場人物たちが直面する社会的・国際的な問題にも目を向けている点にあります。

作中では、紛争が続く地域に関する描写や、そこで生きる人々の存在が丁寧に描かれており、物語全体に現実の重みと広がりを与えています。

特に、ある登場人物を通して見えてくる「報道とは何か」「他者の痛みにどう向き合うか」といった問いかけは、読む人の価値観に揺さぶりをかけてきます。

恋愛の物語を軸にしながらも、その先にある社会や人間の本質にまで目を向けた作品だと感じました。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

過去は変えられる

読み終えてまず感じたのは、「人生において、タイミングがどれほど大きな意味を持つのか」ということでした。

蒔野と洋子は、心を通わせる機会もあったはずですが、そのたびに少しずつすれ違っていきます。些細な誤解やタイミングのずれによるもので、そのリアルさが胸に残りました

また、作中に何度か登場する「過去は変えられる」という言葉がとても象徴的でした。

これは過去の事実を変えるという意味ではなく、出来事の“意味”を、後から変えていけるということ。

二人の選択もまた、その延長線上にあるように感じます。

作品として整えられた言葉

読みながら少しだけ気になったのは、登場人物たちの言葉が、どこか現実の会話とは違う印象を受けたことです。

序盤ではその深さに引き込まれ「なるほど」と思いながら読んでいましたが、途中からは少しずつ、それが物語の流れから浮いて見えるようにも思えてきました。

会話の一つ一つが、物語の流れというより、「作者の考えを語らせるための器」のように見えてしまっていた気がします。

それが作品に一種の哲学的な重みを与えているのは確かですが、同時に「この登場人物、本当にこんなふうに話すだろうか?」という疑問がちらついて、物語へ入り込みきれなくなる部分もあったような思います。

リアルな会話劇というより「考えを共有するための舞台」として読まれるべき個所も含まれているように思いました。

理不尽な運命

あのすれ違いの場面。本来なら届くはずだった気持ちが、たった一本の偽のメールで断ち切られてしまう展開は、読んでいて苦しくなりました。

三谷の行動はどう考えても正当化できません。しかもその後、蒔野と結婚するという展開は「それって許されること?」と問いかけているような、挑発的な構成にも感じられます。

だからこそ、ラストでふたりが再会したところで、「ほんとうにこれで帳消しになるの?」とか、「ここまでしてすれ違わせる必要があったの?」という違和感が残ります。

この作品は単純な恋愛物語というより「人生は理不尽で、取り返しのつかないことがある」という現実を描きたかったのでしょうか。

たしかに人生は、自分ではどうしようもない些細な出来事。誰かの嘘、誤解、タイミングのズレ。そういうものに左右されてしまうこともあるかと思います。

この物語には、そうした「抗いきれない理不尽さ」や「取り返しのつかないすれ違い」を容赦なく描いている気がします。

なので読後に残るのは、必ずしもスッキリとした感動ではなく、むしろ「どうしてこうなってしまったんだろう」という複雑な余韻です。それこそがこの作品のリアルなところなのかなと思います。

過去には戻れないし、時間は進んでしまった。それでも、「この人と出会えたことには意味があった」と思えるような再会。

そこには恋愛を越えたつながりみたいなものが描かれているようにも感じられました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/マチネの終わりに

まとめ

以上、平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」の読書感想でした。

“もしもあのとき”を抱えながらも、それでも生きていく。その苦さも温かさも詰まっていました。静かに心に残る作品でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。