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笑わない数学者/森博嗣 -感想/考察- S&Mシリーズ第3弾。仕掛けられた逆トリックとは

読書感想です。今回は森博嗣さんの「笑わない数学者」です。
S&Mシリーズの第3弾です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:笑わない数学者
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :346P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • S&Mシリーズの他の作品が好みだった
  • 理系っぽい世界観を体感したい
  • 謎解きがしたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『伝説的数学者、天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館でクリスマスパーティーが行われる。人々がプラネタリウムに見とれている間に、庭に立つ大きなブロンズのオリオン像が忽然と消えた。博士は言う。「この謎が解けるか?」像が再び現れた時、そこには部屋の中にいたはずの女性が死んでいた。しかも、彼女の部屋からは、別の死体が発見された。パーティーに招待されていた犀川(さいかわ)助教授と西之園萌絵(にしのそのもえ)は、不可思議な謎と殺人の真相に挑戦する。』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

このシリーズは1冊のボリュームが大きめで続けて読むと重たくなってきそうな気がして前作を読んでから少し時間が空きました。しかし読み始めるとなんでもっと早く読まなかったのかと後悔するほどまた引き込まれてしまいました。

「すべてがFになる」「冷たい密室と博士たち」に引き続き相変わらず独特な理系ミステリー。登場人物たちのやり取りが妙に心をくすぐるんですよね。ただ私が理系寄りだから楽しめてるのかな?と思う部分もあり、理系とは無縁な方がこのシリーズを読むとどういう感想になるのか気になります。

前作までからの差として感じたのは、今作は登場人物間のやり取りや扱われるテーマに哲学っぽさが多いことです。その思考を解釈することがこの作品のトリックを解き明かすために必要となります。

作中で起こる事件に収まらない仕掛けが存在することが大きな特徴です。読者向けに残されるパズルなどもあり、それと明記はされていないものの「読者への挑戦」が含まれている作品のようにも見えます。

また犀川先生と萌絵の軽快なやり取りがこれまでの作品よりも多くみられたように思います。ニヤニヤしてしまうようなポップで知的なやり取りが今作でも良いアクセントになっています。

考察が求められる作品です。
以下、内容に触れつつ感想と私の考察を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

天王寺博士?との会話はいずれも興味深かったですね。印象的だった言葉を引用します。
「人間の最も弱い部分とは、他人の干渉を受けたいという感情だ」
「自由以外に思考の目的はない。人間が思考によって獲得する価値のあるものは、それ以外にないからだ」
「殺人は、単なる交換である」
最後のものだけ最初は意味が全く分かりませんでした。これは読者向けの謎に関わる一つなのかもしれません。以下の考察部分でまた触れます。

登場人物たちの血縁関係が途中からごちゃごちゃしだして混乱しました。しかもそれが事件のポイントでもあったりするので、よく巻頭にある登場人物紹介ページを振り返りながら読みました。

事件のトリック自体は単純で早い段階で気づくことができるものだったかと思います。森博嗣さんもトリック自体は意図的に簡単なものにしたということを森博嗣さんのホームページで仰っています。「トリックに気づいた人が、一番引っかかった人である、という逆トリック」だそうで、この作品で読者が謎解きしなければならないのは他にもあるということかと思います。

<考察>
■地下室にいたのは天王寺翔蔵博士か?
この問いが最後に残されました。そして最後の最後に誰だか明示されない公園の老人の話がありました。森博嗣さんが仰る「逆トリック」はこの部分を指しているのでしょうか?

最終的には「地下室の老人」「白骨死体」「公園の老人」が、「天王寺翔蔵博士」「天王寺宗太郎」「片山基正」のいずれかである、どれがどれに当たるのかが考察対象です。

犀川先生と天王寺翔蔵博士の最後の会話をそのまま受け取ると、

地下室の老人=天王寺翔蔵博士
白骨死体=天王寺宗太郎
公園の老人=片山基正

となります。ある意味一つの正解ではあるのかもしれません。まず上記ではないと仮定して考察を進めます。

簡単なところから行くと、今作のタイトル「笑わない数学者」がヒントであると森博嗣さんがホームページで仰っています。ということをシンプルに受け取り、笑っていないのは「白骨死体」でそれが数学者である「天王寺翔蔵博士」であろうということになります。他の2人は笑っている描写があります。

残りがどうかというのは意見が分かれるようですが、これもシンプルに、
・天王寺宗太郎作の「睡余の思慕」を思わせる状況である「地下室の老人」が「天王寺宗太郎」
・”内と外”という概念に触れた「公園の老人」が「片山基正」
かなと私は解釈しています。もう少し補足すると、「地下室の老人」は最後に心不全で亡くなりますが「片山基正」は癌を患っていた(治ったとされているが)ということと結びつかないこと、”内と外”という概念には「地下室の老人」も触れていますがそれはあの建物にいるからであってその概念を外まで持ち出している「公園の老人」の方がその概念にこだわりを持っているように感じる(「天王寺宗太郎」自身に”内と外”という概念との関連がないことから、もし「公園の老人」が「天王寺宗太郎」であるとして”内と外”の話をしだすことには違和感がある)ことから「公園の老人」は「片山基正」で、消去法で「地下室の老人」が「天王寺宗太郎」という感じです。「地下室の老人」の「殺人は、単なる交換である」という言葉も「睡余の思慕」を思わせる気がします。

ただし、この意見の反証のような描写もあり、自信をもってこうだと言えるものではないですね。例えば「地下室の老人」は「人間の最も弱い部分とは、他人の干渉を受けたいという感情だ」という話をしていましたが、妻から愛されなかった「片山基正」を思わせる部分があるように思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

■(ついでに)ビリヤード問題
「五つのビリヤードの玉を真珠のネックレスのようにリングにつなげてみるとしよう。玉にはそれぞれナンバーが書いてある。さて,この五つの玉のうち幾つ取っても良いが,隣どうし連続したものしか取れないとしよう。一つでも二つでも五つ全部でも良い。しかし離れているものは取れない。この条件で取った球のナンバーを足し合わせて1から21までのすべての数ができるようにしたい。さあ,どのナンバーの玉をどのように並べてネックレスを作ればよいかな?」

考察というか解いてみようという部分ですね。
一般解があるのかは不明です。ただこの問題の答え自体は少し考えればわかりそうです。

簡単に気付けそうなこととしては、
① 1と2は必ず含まれる。(数の組み合わせで作れないため)
② 3と4のいずれかは必ず含まれる。(いずれも含まれないと4が作れない)
③ 玉を取るパターンは全部で21通り。(1個取るパターンが5通り、2個取るパターンが5通り、3個取るパターンが5通り、4個取るパターンが5通り、5個取るパターンが1通り)
 ③-1 ということは、21までのすべての数ができるためにはこれらのパターンの中で出来る数に重複は発生しえない。
 ③-2 5個の数字を足し合わせたら21になる。(1と2以外の3個の数字を足し合わせたら18になる。)

ここからは適切な導き方はわかりませんが、力技で求めることができそうです。①、②、③-2をすべて満たす5つの数字の組み合わせを洗い出してみます。この6パターンしかありません。

(1、2、3、4、11)
(1、2、3、5、10)
(1、2、3、6、9)
(1、2、3、7、8)
(1、2、4、5、9)
(1、2、4、6、8)

これらについて一つずつ、③-1を満たすかどうか確認をしていくと、
(1、2、3、5、10)
以外のパターンでは組み合わせの中に重複が発生することがわかります。5つの数字の組み合わせはこれが答えということになります。なぜ他のパターンがダメかを一つだけ例で示します。似た考え方で他のパターンもダメなことがわかります。

(1、2、3、4、11)
1と2は隣り合うことができません。(3が重複してしまうため)
同様に1と3も隣り合うことができません。(4が重複してしまうため)
つまり1の両隣には4と11が入り、残りの2か所に2と3を入れることになりますが、1と4で5、2と3で5とどうしても5の重複が発生します。③-1を満たすことができないためこのパターンはダメです。

最後に(1、2、3、5、10)の並べ替えです。
1と2は隣り合うことができません。(3が重複してしまうため)
2と3は隣り合うことができません。(5が重複してしまうため)
つまり2の両隣には5と10が入り、残りの2か所に1と3が入ります。
(1)1-5-2-10-3
(2)3-5-2-10-1
(3)1-10-2-5-3
(4)3-10-2-5-1
(1)と(4)、(2)と(3)は同じです。(以下の図を見てもらえばわかると思います。)
(2)(3)のパターンは3-5-2で10が重複してしまうためダメです。
ということで答えは、

(1-5-2-10-3)

です。試しに21まで作れるかやってみてはいかがでしょうか。

ビリヤードの答え

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/笑わない数学者

まとめ

以上、森博嗣さんの「笑わない数学者」の読書感想でした。
改めて私はS&Mシリーズ好きだなと思いました。犀川先生と萌絵に愛着が湧いてきました。仕掛けにも毎度驚かされます。この後の作品も面白いものが待っているようですので近いうちに読みたいなと思います。今作を未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。