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この気持ちもいつか忘れる/住野よる -感想- どんな過去もやがて薄れてしまう。たとえ、異世界の少女と恋に落ちたとしても…

読書感想です。今回は住野よるさんの「この気持ちもいつか忘れる」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:この気持ちもいつか忘れる
  • 作者 :住野よる
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :544P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 一風変わった恋愛小説を読みたい
  • ファンタジーな小説が好き
  • 大事にしている過去がある
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『毎日が退屈だ。楽しいことなんて何もない。授業を受けるだけの日日を過ごす男子高校生のカヤは、16歳の誕生日に、謎の少女チカと出会う。美しい目を光らせ、不思議なことを話すチカ。彼女は異世界の住人らしいのだが、二つの世界では奇妙なシンクロが起きていた。そして、チカとの出会いを重ねるうちカヤの心にはある変化が起き……ひりつく思いと切なさに胸を締め付けられる傑作恋愛長編。』

引用元:新潮社

感想

ファンタジーで現実的な恋愛小説
あらすじにもある通り、主人公の男子高校生が謎の少女と出会うという設定が本作の最も大きなポイントです。その点はまるきりファンタジーなのですが、本筋である恋愛としての人の心の動きは現実的。共感できたりできなかったりという恋愛小説の楽しさを、ファンタジーな設定により本作特有の形で表現していて個性的な物語になっています。

想像をかき立てられる
ファンタジーな設定が魅力的です。ざっくり言うと、異世界の少女と出会い、相互の世界を知りながら関係を深めるいうものです。2人の関係性とそのファンタジー設定がどう展開していくのかと引き込まれます。主人公と一緒に分析したくなるような、自分だったらどうするかな?と想像したくなるような、魅力的な設定だと私は思いました。

共感できたりできなかったり
厨二病を拗らせたような主人公で、彼の存在は賛否両論ありそうです。日常を退屈に感じ、平凡だと自分を卑下しながら、平凡に暮らす周囲を見下す。そんな彼が求めに求めた”特別”に出会うことで物語は動き出します。私としては真っ正面から共感できるというほどではないものの、形は違えど似たような思いを抱いたことがあるという部分が多かったです。特にこの小説のタイトルに当たる部分は、私としても向き合い方のヒントをもらえたように感じました。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意
忘れるということ
カヤが言う突風という表現がイマイチしっくりきませんでしたが、人生のピークが過ぎてしまった、あとは余生だという感覚は何となくわかります。そのピークの記憶でさえ時間とともに薄れてしまう。誰もが経験していることだと思いますし、それが許せず悩む気持ちも理解できます。

ただそこにあったことは事実であり、忘れてしまったとしても嘘にはならないという紗苗の言葉は印象的でした。この考え方は持っていたいと思えました。

『私が今、違う生き方をしていた私だったのかもしれない香弥くんともう一回向き合いたいって思うこの気持ちも、いつか必ず忘れる』
『だから今、その自分の心と大切なものに恥じない自分でいなくちゃいけない。そうでいたい。悩んで苦しんで今を積み上げていくことしか出来ない。それを繰り返した時に、チカを好きだった自分が確かにいたって言う今が出来る。音楽に影響を受けた自分は間違ってなかったって今が出来る。そうして生きていくことしか出来ないんだよきっと。だから、もう、いいよ』
『忘れても大丈夫』
人は常に変化し、成長し、そして過去の感情を忘れていくという現実を、このタイトルは示しているかと思います。しかし、それは必ずしも悲しいことではなく、成長の一部として受け入れるべきものだと感じました。生きていく中で感じるさまざまな感情や出来事は、一時的なものであり、いつか忘れてしまうかもしれませんが、その瞬間瞬間が私たちを形作り、成長させていくというメッセージが心に響きました。
登場人物たちのクセ
何となく違和感を感じる登場人物が多かったように思います。カヤに関しては言うまでもない、というかこういう物語にする上で仕方なかったのかなというくらい極端なキャラクターでした。

私が気になったのは、チカの輪郭が見えなかったことです(物理的に見えてないという意味ではなく個性がという意味)。感情が込められていないような淡白な印象です。カヤとチカはお互いの環境から見て特別な存在として惹かれあったというのは分かりますが、それ以上の恋愛に繋がるような想いがどこから生まれたのか共感しづらかったように思います。

斎藤こと須能紗苗が最もまともで好印象でしたが、彼女の学生時代からの変化もあまり深堀はされず、カヤと対になる者としては中途半端な存在に見えました。好印象だったからこそもう少し明確な背景を知りたかったです。

異世界設定をもっと深堀してほしかった
前半のチカとの交流はワクワクしました。カヤの世界とどう違うのか、どう影響しあってるのか、少しずつ試して知っていく過程には引き込まれました。

どう展開するのかと期待が高まったところでそれっきりになってしまってかなり残念でした。本作が語りたいことはそこではなかったということかと思いますが、後半がこの展開になるなら相手が異世界の人物だった理由は何なんだろうなと思ってしまいます。特別な存在という意味ではインパクトありますが、恋愛に繋げると共感しづらかったり設定がもったいない気がしました。

ようは、チカとの続きの物語が見たかったなという気持ちが大きいです。

チカと再会できないことについて
とはいえきっぱりチカとは再会しないという潔い構成だったのは好印象です。前半にしっかりチカとの蜜月を描き、読んでいる私としてもチカのことを印象付けられた状態で後半の展開になることで、カヤの気持ちを共有出来ていたようには思います。

伏線について
伏線らしきものがいくつかありました。例えば「見つからないように」という挨拶。これは歴史の中で形だけ残ったものと説明がありました。“忘れる”ということを表す要素ではあるのかもしれませんが、物語に影響する伏線ではありませんでした。

あとは名字の件ですか、これはミステリーで受けるような驚きはありました。斎藤と呼ばれる紗苗が不憫すぎて心が痛みました。この点もカヤの個性を表してはいますが物語とは関係がなく、紗苗を傷つけるだけの要素のように思えました。

異世界の存在もそうですが、深堀されずに明らかにならなかったり、気にさせておいて物語に関係ない要素があったりと、不完全燃焼感が残っています。

3行でネタバレ

続きを読む ※ネタバレ注意
退屈な毎日を過ごす高校生男子のカヤ。目と爪が光って見える以外その存在が目に見えない謎の少女チカと出会う。
チカは異世界の存在らしい。相互の世界やお互いの干渉について調べる間に2人は惹かれ合う。しかし些細なきっかけで二度と出会えなくなる。
チカのことを抱え続けたまま大人になったカヤ。同級生の女性と再会し形だけの交際が始まる。転換点が訪れ、カヤはチカとの過去、そして現在に向き合うことになる。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/この気持ちもいつか忘れる

まとめ

以上、住野よるさんの「この気持ちもいつか忘れる」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。