当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

詩的私的ジャック/森博嗣 -感想- S&Mシリーズ第4弾。なぜなのか…理解できますか?

読書感想です。今回は森博嗣さんの「詩的私的ジャック」です。
S&Mシリーズ第4弾です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:詩的私的ジャック
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :474P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリー小説が好き
  • S&Mシリーズが好き
  • 独特なホワイダニットを体感したい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『死体に残された傷は何を意味するのか!?
女性が死んでいた。みな密室で。歌詞のとおりに1人、また1人。

大学施設で女子大生が連続して殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手の結城稔。被害者と面識があった上、事件と彼の歌詞が似ていたのだ。N大学工学部助教授・犀川創平とお嬢様学生・西之園萌絵が、明敏な知性を駆使して事件の構造を解体する!』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

S&Mシリーズ第4作目です。

あらすじにある通り、密室、不可解な文字状の傷、歌詞に似た事件の状況、ミステリーとしてワクワクするような要素がたくさんありますね。

ミステリーは大きく、誰がやったのか(Who)、どのようにやったのか(How)、何故やったのか(Why)、のどれを解明することを重視しているかで分類されることがあります。今作はすべてを解明していくことにはなりますが、特徴的なのは「Why」かと思います。シリーズ第1作目の「すべてがFになる」もそうですね。

上に書いたミステリーとしてワクワクする要素、からするとHowやWhoに注目が集まりそうですが、森博嗣さんらしさが表れているのはWhyで間違いないかと思います。そのような犯人の内面に関してもそうですが、登場人物の心情や思考に関する描写が多くありとても興味深いです。ミステリーという面に加えて、人間の複雑さみたいなことが表現されていたように思います。

他の読者方からは、犀川先生と萌絵のドキドキ要素が多め、という声が多いようですね。それが良いか悪いかは読者がこの作品に求めるものによって変わると思いますが、私としては今回も単調にならない良い塩梅に思いました。二人の関係がどのように進展するのかというのもこのシリーズを読む楽しみの一つです。

タイトルの「詩的私的ジャック」も「JACK THE POETICAL PRIVATE」も語呂が良くて私はとても好みです。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓
使用感など書いた記事もありますので読んでみてください↓↓↓
kindle unlimitedを使った感想を率直に。おすすめできる?【レビュー・評価】

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

まず事件についてですが、一つ一つのHowはさらっと描かれている程度で意図的にあっさりさせているように思いましたが、Whoには驚きがあり、計画全体としてのHowには犯人の思う通りに私も騙されてしまいました。あの状況、限られた時間でここまでの計画を立てるのは賢すぎな気がします。また、篠崎の存在が事件をややこしくしていましたね。犀川先生と篠崎のやり取りのシーンは全く理解できず、その場にいる萌絵が気持ちを代弁してくれていました。『英語で言える?』は名台詞の一つかと思います。

そして何と言っても動機が異質です。自分の妻が人を殺めた、という状況からあの計画を立てるというのは思考が飛躍しているように思えます。2人目の被害者はただ計画のためだけに殺されたというのも、犯人の徹底した姿勢が表れておりその異質さを際立たせています。しかし、ノートを真っ白にしたかった、という気持ちは私はわからなくもありません。人を殺すのは極端ですが、過去のことなかったことにしてやり直したい、と思うような経験は誰しもあるかと思います。記憶から消す、見えないほど遠くへ行く、などして疑似的にその状態を作り出すことが現実的で、実際に消してしまおうという犯人の動機はそれを超越していてやはり理解しがたいです。

ただし、その動機も犀川先生の推理や篠崎の話であり、犯人が言葉にしたものではありません。そのように今作では「犯罪の動機」を通じて、他者からはなおさら、自身でさえ、説明できないような人間の内面の複雑さが描かれていたように思います。以下の犀川先生の言葉はそのことを表現しているように思いました。

『動機なんて、本当のところ、僕は、聞きたくないし、聞いても理解できないでしょう。それに、本人だって説明できるかどうか……。こんな欲望が、言葉に還元できるものでしょうか?他人に説明できて、理解してもらえるくらいなら、人を殺したりしない。そうではありませんか?』

第11章の6節がその複雑さを詩的に表現しているのでしょうか。なぜか読んでいて心地よくて、繰り返し読んでしまいました。

一方で犀川先生の以下の言葉も印象的でした。

『相手の思考を楽観的に期待している状況……、これを、甘えている、というんだ。いいかい、気持ちなんて伝わらない。伝えたいものは、言葉で言いなさい。それが、どんなに難しくても、それ以外に方法はない』

伝えたいことは言葉で伝える以外に方法はない。しかし、自身でも説明できないようなことを内に抱えている場合もある。その相反した状態。犯人は甘えから人を殺してしまったのでしょうか…

犀川先生と萌絵の関係も多く描かれていましたね。独特な表現にニヤッとしてしまう部分もありました。萌絵は積極的なのは変わらずですが、内面が少し大人になってきて犀川先生との関係を見つめなおしている部分などもあり、だんだん二人の目線が近くなってきているようです。この先二人がどうなるのか気になります。

『二人は、数字の11よりも接近した。』

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/詩的私的ジャック

まとめ

以上、森博嗣さんの「詩的私的ジャック」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。