当サイトの本に関する記事はすべてネタバレに配慮しています。御気軽にお読みください。

一瞬の風になれ/佐藤多佳子 <あらすじ・感想・考察> 爽やかで弾ける高校陸上の物語

読書感想です。今回は佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」です。

2007年本屋大賞受賞作品です。全3巻です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:一瞬の風になれ
  • 作者 :佐藤多佳子
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :①272P ②320P ③464P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 青春スポーツ小説が好き

  • スピード感のある文章を楽しみたい

  • 爽やかな読後感を求めている人

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
2
3
4
5
読み応え
1
2
3
4
5
過激表現
1
2
3
4
5

あらすじ

『「速くなる」 ――ただそれだけを目指して走る。 白い広い何もない、虚空に向かって……。 春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に入部した2人のスプリンター。ひたすらに走る、そのことが次第に2人を変え、そして、部を変える――。「おまえらがマジで競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」思わず胸が熱くなる、とびきりの陸上青春小説、誕生。 第28回吉川英治文学新人賞受賞 2007年本屋大賞受賞

引用元:講談社

感想

高校陸上部が舞台の青春小説

高校陸上部を舞台に、主人公・神谷新二の成長と友情を描いた青春小説です。

新二はサッカーで挫折を経験し、高校入学を機に陸上競技に挑戦します。

幼なじみであり、天才スプリンターの一ノ瀬連と共に、短距離走に情熱を注ぐ日々が始まります。

物語は、新二の視点で進行し、彼の内面や葛藤がリアルに描かれています。

特に、陸上競技における努力や挫折、仲間との絆が丁寧に描写されており、読みながら新二と共に一喜一憂することになります。

爽やかさが眩しい

読者の感想として、「涙腺いくつあっても足りない」「陸上にかけた青春」「仲間との絆」といった声が寄せられています 。

また、「レモンスカッシュみたいな爽やかで弾ける高校陸上の物語」と評する声もあり、高校生らしい素直な感情が懐かしさを呼び起こすとのことです 。

スポーツに打ち込む若者たちの情熱や、仲間との絆を描いた作品であり、読者に爽やかな感動を与えてくれます。

青春時代の輝きや、何かに全力で取り組むことの素晴らしさを再認識させてくれます。

ボリュームはあるがさらっと読める

三部作(第一部「イチニツイテ」、第二部「ヨウイ」、第三部「ドン」)で構成されており、合計すると1,000ページほどのボリュームがあります。

ただし、一冊ずつはそれほど長くなく、文章も平易で読みやすいため、一気に読み進めることができます。

文体はシンプルでリズムが良く、特に陸上競技の描写ではテンポの良い文章が疾走感を生み出しています。

主人公・新二の語り口も軽快で、会話文が多めなのでスラスラ読めるのが特徴です。

スポーツを題材にした小説ですが、専門的すぎることはなく、陸上の知識がなくても楽しめます。

また、部活や青春のリアルな悩み、友情の機微が丁寧に描かれているため、スポーツをしていなかった人でも共感しやすい物語になっています。

コンマ何秒の差

陸上競技はコンマ何秒の差を争うことも多くありますが、コンマ何秒の差って普段の生活では意識しないからイメージしづらいです。でも、陸上競技の世界ではものすごく大きな差になるようです。

例えば、100m走で0.1秒の違いがどれくらい大きいかを見てみます。

2021年の東京オリンピック男子100m決勝の1位は9.80秒、2位は9.84秒。たった0.04秒差で順位が変わっています。世界記録(ウサイン・ボルトの9.58秒)と、日本記録(サニブラウンの9.97秒)も、0.39秒しか違わないのに、ものすごく大きな差に感じます。

陸上以外の例を挙げると、車の運転で時速40kmで走行中、0.1秒遅れると約1.1mの差がつきます(これはバトンパスのミスとかに影響する)。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
kindle unlimitedで読書生活をより楽しみませんか?対象の小説や漫画など、
200万冊以上が読み放題。
登録はこちらから↓

感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

本屋大賞受賞の評価ポイント

本作は本屋大賞を受賞していますが、評価されたポイントについて考えてみようと思います。

1. リアルな青春とスポーツの描写
陸上競技の練習や大会の描写がとてもリアルで、スポーツ経験がある人なら共感できるし、未経験の人でもワクワクしながら読めます。競技の厳しさや、速くなることの難しさがちゃんと伝わってきます。

2. 爽やかで読みやすい文体とテンポ
主人公・新二の語り口が軽やかで、テンポよく進んでいくから、分厚い三部作でもスラスラ読めます。この「気軽に手に取れて、しかも夢中になれる」っていう読みやすさが、推したくなるポイントの1つかもしれません。

3. 仲間や成長の物語としての完成度
ただのスポーツ小説ではなく、新二の成長や、連との友情、部活の仲間との関係が丁寧に描かれているのが魅力です。特に、天才型の連と努力型の新二の対比や、それぞれが抱える葛藤がドラマチックで、心に響きます。

4. 「青春の一瞬の輝き」を見事に切り取ったこと
タイトル通り、「一瞬の風」のように過ぎていく高校生活の輝きを描き切っているのが大きなポイントなように感じます。大人になった読者が読んでも、「あの頃の気持ちを思い出す」ような感覚になれるのは魅力です。

5. 幅広い層におすすめしやすい作品だった
本屋大賞は「本屋さんが一番売りたい本」を選ぶ賞なので、誰にでもおすすめしやすい作品であることも重要です。その点、本作は、スポーツ好きな人はもちろん、青春小説が好きな人、爽やかで感動的な話を求めている人など、幅広い層に刺さる内容なように思います。

陸上競技に興味が湧いた

陸上競技は、野球やサッカーみたいにチーム戦のイメージが強いスポーツと違って、個人競技の印象がありましたが、本作を読むと「リレー」っていう要素があることで、仲間とのつながりや戦略が見えてきて、一気に面白く感じました。

短距離走の「コンマ何秒を縮めるために全力を尽くす」っていうストイックさとか、スタートの一瞬にかける緊張感とか、普段意識してなかった部分にグッと引き込まれました。

新二が最初は素人目線で陸上に入っていくので、一緒に学びながら楽しめるのもよかったです。速くなるために要素とかバトンパスの奥深さのような発見があって、競技としての面白さに気づけるのがこの作品の魅力のひとつだと思いました。

これをきっかけに、陸上の大会とか観るとまた違った目線で楽しめるかもしれません。

良くも悪くも軽い語り口

新二の語り口がすごく軽やかで、まるで会話してるみたいな文体でした。

良くも悪くも肩の力が抜けてて、スッと物語に引き込む感じがあります。

彼の性格もあって、深刻になりすぎず、どんな場面でもどこかフラットな視点を保ってるのが特徴的でした。

その軽やかさがあるからこそ、レースの瞬間や感情が高まる場面で、一気に熱量が上がるのが映えるように感じます。

逆に言えば、熱いスポーツものを期待して読むと、ちょっと物足りなく感じるかもしれません。

でもこの軽さが、青春の一瞬の輝きを切り取るのにピッタリだと私は思います。

余韻を残す終わり方
インターハイの結果やその後の進路まで描かれなかったのはちょっと意外でした。ある意味中途半端にも感じました。

しかし、それこそが『一瞬の風になれ』のテーマに合っているのかもしれません。

物語全体を通して描かれていたのは「結果」よりも「走ることそのもの」であって、新二がどこまで速くなるのかとか、最後に勝つのか負けるのかよりも、彼が仲間とともに走る中で何を感じて、どう成長してきたのかが大事だったんだと思います。

ただ、私としては新二と谷口の関係が結局どうなったのかハッキリしないままなのが悔しかったです。とても爽やかで羨ましいような関係性でした。インターハイに向けてやその後どんな2人のやり取りがあるのかなと気になってしまいます。

でも、そこもこの作品らしいというか、新二自身が「恋愛よりも今は走ることが一番」っていう状態を表しているのかなと思います。

はっきり形にならない関係とか、答えが出ないままの気持ちとか、そういう曖昧なものが多いからこそリアルな青春に見えるのかもしれません。

あのタイミングではまだ”未完成”で終わるのが自然ではありました。読者としては気になりますが、そこも含めて「青春はまだ続いていく」っていう余韻の残し方だったように感じます。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/一瞬の風になれ①

まとめ

以上、佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」の読書感想でした。

全体的に前向きなエネルギーがあるので、読後感が爽やかで清々しい気持ちになれます。読んで元気をもらいたい人にはぴったりです。部活に熱中した経験がある人はもちろん、そうでなくても青春の輝きや仲間との絆を感じたい人におすすめの作品です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。