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一線の湖/砥上裕將 <あらすじ・感想・考察> 「線」が人を導き、結びつける。「線は、僕を描く」の続編。

読書感想です。今回は砥上裕將さんの「一線の湖」です。

「線は、僕を描く」の続編です。前作の感想記事もありますので良ければご覧ください。
線は、僕を描く/砥上裕將 <あらすじ・感想・考察> 白と黒で描かれる色とりどりの命。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:一線の湖
  • 作者 :砥上裕將
  • 出版社:講談社
  • 頁数 :352P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 前作『線は、僕を描く』を読んだ
  • 芸術や創作に興味がある
  • 繊細な人間ドラマが好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『小説の向こうに絵が見える! 美しき水墨画の世界を描いた物語

水墨画とは、筆先から生み出される「線」の芸術。
描くのは「命」。

20万部を超えたメフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』に続く、水墨画エンターテイメント第二弾!

主人公・青山霜介が、ライバル・千瑛と湖山賞を競い合った展覧会から2年が経った。
大学3年生になった霜介は水墨画家として成長を遂げる一方、進路に悩んでいた。
卒業後、水墨の世界で生きるのか、それとも別の生き方を見つけるのか。
優柔不断な霜介とは対照的に、千瑛は「水墨画界の若き至宝」として活躍を続けていた。
千瑛を横目に、次の一歩が踏み出せず、新たな表現も見つけられない現状に焦りを募らせていく霜介。
そんな折、体調不良の兄弟子・西濱湖峰に代わり、霜介が小学一年生を相手に水墨画を教えることになる。
子供たちとの出会いを通じて、向き合う自分の過去と未来。
そして、師匠・篠田湖山が霜介に託した「あるもの」とはーー。

墨一色に無限の色彩を映し出す水墨画を通して、霜介の葛藤と成長を描く、感動必至の青春小説!

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

「線は、僕を描く」の続編

主人公は前作に引き続き青山霜介です。

前作から2年後。

大学3年生となった霜介は、進路に対する迷いと、周囲の人々の期待、そして自身の内面に潜む不安に直面します。

彼が水墨画家として成長する過程で、自分自身の「一線」を見極めようとする物語です。

人生における試練

特に印象深かったのは、霜介が師匠・篠田湖山から託された「あるもの」と向き合う場面です。

それは単なる物理的な遺産ではなく、霜介にとって精神的な試練ともいえるものでした。

これを通じて、彼は水墨画家としてだけでなく、人としての成長を遂げます。

人間ドラマに感涙

あらすじにもあるように、霜介が小学一年生たちに水墨画を教える場面があります。

とても印象的で心温まるものでした。このエピソードは、芸術が人々をつなぐ力を持つことを実感させると同時に、霜介が自身の「一線」を越える手がかりを得る重要な場面でもあります。

また、ライバルである千瑛も当然ですが前作から引き続き登場します。

彼女と霜介の関係性もまた興味深いものでした。

千瑛は水墨画界のホープとして成功を収めていますが、その華やかな姿の裏にも葛藤が隠れています。

霜介と千瑛がそれぞれ異なる道を歩みながらも、互いに影響を与え合う姿は、単純ではない人の結びつきを感じます。

美しくも力強い
この作品は、水墨画という独特の芸術世界を背景に、人間の成長や関係性を丁寧に描いた物語です。

美しくも力強い文章に心を揺さぶられ、芸術や人生について多くの学びを得ることができた一冊でした。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

ずっと涙腺を刺激してくる

今作はぐっとくる場面がたくさんありすぎました。

私が特に好きだったのは小学校で教えることになるところです。

霜介と純粋な子どもたちとのやり取りには、私も心が晴れていくような気持ちになりました。

またそこが母が勤めていた小学校というところも、ずるいと思うくらい刺さります。

椎葉先生と思いを分かち合い、目を背けていたことに向き合い始める霜介。

そう簡単には行かないというところも含めて共感できて、胸を締め付けられるようでした。

その他にも周囲の人との繋がりとそこにある繊細な心情が丁寧に描かれていて、羨ましいと思うような美しい人間ドラマでいっぱいでした。霜介は周囲の人間に恵まれすぎていますね。

美しい描写…だけど

水墨画を描く様子も人間ドラマも繊細で美しく描かれていました。

読んでいる私も自然とそっとページをめくるようになってしまうような感覚でした。

文章として美しいのは伝わってきますが、抽象的な部分が多いのでイメージしづらいということが私には少しあったように思います。

特に水墨画を描く場面は、動きの美しさは感じられるものの、出来上がっていく絵がなかなか想像できず、もっと頭に絵が浮かべばいいのにと自身の想像力の無さが悔やまれます。

ただ、実際の水墨画を、水墨画を描いているところを見てみたいという興味はとても湧きました。

また千瑛が、霜介がもう筆を持たないなら私も持たない、と言った場面がありました。

印象的な場面だったのですが、何故?とちょっと理解できませんでした。

また結末を受けてこの件はどうなったの?と気になります。

過去と未来

湖山先生が終始素敵でした。

何かと言葉足らずなのにはやきもきさせられますが、それも言葉としてではなくもっと本質的なことを伝えたいという思いを表しているように感じます。

感動的な場面がいくつもあって、感情の起伏としてはもうピークは過ぎたかと思っていたら最後、

千瑛が霜介の作品の前で泣いていて、

湖山先生が霜介の作品に名前を付けていたことを知るという場面がきて、

そこが最大のピークで最高に感動しました。構成にやられました。

霜介の進路は小学校の先生ということでした。

そのこと自体は物語序盤から見えていましたが、結論を出すまでの過程を知り、湖山先生の思いを知ることで、過去から未来へ線が繋がっていくような、前作を含めたこの小説を象徴するような良い結末だと私は思いました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/一線の湖

まとめ

以上、砥上裕將さんの「一線の湖」の読書感想でした。

水墨画という独特の芸術世界を背景に、人間の成長や関係性を丁寧に描いた物語です。美しくも力強い文章に心を揺さぶられ、芸術や人生について多くの学びを得ることができた一冊でした。芸術を愛する方だけでなく、進路や人生の選択に迷うすべての人に、この物語を手に取ってほしいと心から思います。

未読の方は是非手に取ってみてください。

前作の感想記事もありますので良ければご覧ください。
線は、僕を描く/砥上裕將 <あらすじ・感想・考察> 白と黒で描かれる色とりどりの命。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。