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ハサミ男/殊能将之 -感想- 驚愕のどんでん返し!混乱必至の傑作ミステリー

読書感想です。今回は殊能将之さんの「ハサミ男」です。
「どんでん返し」の結末が注目される有名なミステリー小説ですね。第13回メフィスト賞を受賞しています。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:ハサミ男
  • 作者 :殊能将之
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :520P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 驚愕のどんでん返しを体感したい
  • 暗い雰囲気の小説が読みたい
  • 有名なミステリー作品が読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!』

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

ページ数が多めで、またカバーやあらすじなどから暗い雰囲気で重たい読書になりそうだと構えてしまうような外観ですね。私は読み始めるために少し心構えが必要でした。読み始めると外観からのイメージ通りに不気味な雰囲気を感じます。語り手が独特でそれがこの作品の大きな特徴になっています。

文章は歯切れが良いような感触でとても読みやすいです。この感じならこのボリュームでも難なく読み進められそうだなと読み始めてすぐに思えました。

不気味な雰囲気はありながら、先が気になる物語でどんどん世界に引き込まれていきます。事件が起きた後に真実を追求する部分が中心ではありますが、事件が起きるまでの話も独特な視点で進んでいき、何が起こるのか恐る恐る読み進めていました。そんな序盤の時点でもうこの作品に飲まれていたんだなと思います。最初から最後まで余すところなく面白かったです。

「どんでん返し」がこの作品の大きな魅力です。私は秘められたトリックにまんまと引っかかり、明かされた瞬間にはとても混乱して、あちこち遡って読んでみたり何が起きたのか頭を整理するのに時間がかかりました。世界がひっくり返るような体験でした。

以下、ネタバレ含めた感想を記載します。重要なポイントにも触れています。開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

始めは「わたし」が事件を起こすのかと恐る恐る読み進めていました。慎重に計画的に対象の人物に近付いていく様子がなんとも不気味でした。それと同時に自殺を何度も試みているのも謎で、毎回失敗する様子は医師とのやりとり含めてコメディっぽさもありどう捉えていいのかわからない複雑な気持ちになります。罪の意識からくる行動なのか何なのか、結局「わたし」が何を思っているかはわかりませんでしたが、本気で自殺する気はなさそうということだけは感じました。

「わたし」がこの先で”何をするのか”というのが序盤の興味を引く部分でしたが、事件が起きてからは思わぬ方向に興味が移ることになりました。事件が起きたことにより、大きく二つの謎に向かうことになります。

一つは樽宮由紀子が殺された事件について。
これは物語の中心として描かれているミステリー部分ですね。ハサミ男と類似した犯行を追う警察と今回の犯人ではない「ハサミ男」本人、両方の視点から真実を追求していきます。こちらの結末は非常にシンプルだったなと思います。事件発生してすぐに樽宮由紀子の男性遍歴について発覚することから、何らか恨みを買っているのかなというのは想像できました。犯人は意外な立場の人間で驚きはあるものの、怪しい人物の一人としては認識していました。

殺された樽宮由紀子自身も独特な人物像の持ち主でした。複雑な家庭事情などいくつかの背景と思われることが描かれていましたが、結局本人が何を思っていたかは定かにはなりません。

上井田警部の無動機殺人事件に関する哲学的な話などでも語られていますが、人物や事柄について角度によって見え方が異なってしまうということは避けられず、外から中身を知ることはとても困難である、というのがこの作品のテーマの一つなのかなと思いました。「わたし」が何を思って自殺しようとしているかわからない。樽宮由紀子は何を思って行動していたのかわからない。殺人の本当の動機はわからない。だから警察はあいまいな印象ではなく事実をつかむことが大事ということでした。

読者からすると「ハサミ男」を模倣した犯行の第一発見者が「ハサミ男」であるという事実は序盤でわかっています。その上で警察と「ハサミ男」の2つの視点で見ていくことで、事件の全容を追いかけているように錯覚します。しかし実際は中心人物を見失っています。これも読者が事実にイメージを加えて捉えてしまうことを活用したトリックになっているのだと思います。

ということで、もう一つの謎は、「ハサミ男」である「わたし」は誰なのか、ということです。これがこの作品の肝であり、多くの読者が驚愕することになるポイントですよね。

以下の点により、「わたし」は日高という男性であると読者は誤認します。
・通称がハサミ”男”である
・服装や仕草、口調が男性でも自然
・死体発見時の状況
・「わたし」による自身の容姿の評価と他者から見た日高の容姿

しかし実は「ハサミ男」である「わたし」は安永という少しふっくらした美人な女性だったわけです。確かに若い男性というイメージから少し逸れる描写も思い返せばあったことに気が付きます。男性でも女性でもおかしくはない絶妙な罠がちりばめられていました。

「わたし」の家に日高が来た瞬間にはひどく混乱しました。ここまでずっと読み違えてた?と不安になっていくらか遡って読んでみたりしてるうちにまんまとトリックに引っかかっていることに気が付き、思わず笑ってしまいました。

「ハサミ男」が多重人格であることも混乱させる要素の一つになっているように思います。父親が医師であることが明らかになり、またエディプスコンプレックスについて触れられていました。「ハサミ男」の複雑な人格を表す一面であったとは思いますが、エディプスコンプレックスについて調べてみても直感的に理解できるものではなくやっぱり内面を理解するのは難しいとまた思わされるものでした。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/ハサミ男

まとめ

以上、殊能将之さんの「ハサミ男」の読書感想でした。
近いうちにもう一度丁寧に読んでみなくちゃと思っています。結末を知ってから読むと色んな気付きがあるに違いありません。もう一度読むことが楽しみになる作品というのもなかなか珍しいなと思いました。未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。