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博士の愛した数式/小川洋子 <あらすじ・感想・考察> 記憶が80分しか持たない博士との数字を通じて芽生える友情

読書感想です。今回は小川洋子さんの「博士の愛した数式」です。

第1回本屋大賞、第55回 読売文学賞 小説賞受賞作です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:博士の愛した数式
  • 作者 :小川洋子
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :304P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 心温まる物語が好き
  • 静かな小説を好む
  • 数学や科学が好き

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。

引用元:新潮社

感想

記憶が80分しか持たない博士

記憶が80分しか持たない元数学者の博士と、彼のもとに派遣された家政婦である「私」、そして彼女の息子「ルート」との交流を描いています。

博士は事故の後遺症で短期記憶障害を抱えていますが、数学への情熱は失われていません。

彼にとって、数字はコミュニケーションの手段であり、世界を理解する鍵でした。

例えば、家政婦の電話番号を聞き、その数字の中に素数の個数を見出すなど、日常の中に数学の美しさを見つけ出します。

数字を通じて芽生える友情

家政婦とその息子ルートは、博士との交流を通じて数学の魅力に触れ、人間関係を深めていきます。

特に、ルートと博士の間に芽生えた友情には心が温かくなります。

物語を通じて、数学が単なる数字の羅列ではなく、人と人とを結びつける力を持つことを教えてくれます。

静かに引き込まれる

文体は落ち着いていて、難しい表現が少ないのでスラスラ読めます。

数学の話も出てくるけど、博士の語る数学は専門知識がなくても楽しめるように書かれています。

博士、家政婦、ルートのやり取りが中心なので、説明的な文章ばかりじゃなく、自然な会話が多いのも読みやすいポイントです。

派手な展開はありませんが、静かに引き込まれる、博士の人柄や数学の美しさにじんわり心が動かされます。

総じて、読みやすくて適度なボリュームの小説なので、あまり読書に慣れていない人でも手に取りやすく、落ち着いた気持ちで楽しめる作品だと思います。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

博士が残した「オイラーの公式」の意味

博士の義姉と揉めた際に、博士が残した「オイラーの公式」のメモは何を意味していたのでしょうか?

オイラーの公式とは?

{\displaystyle e^{i\pi }+1=0}

この式には、数学の基本的な5つの重要な数(e, i, π, 1, 0)がすべて含まれていて、数学の世界では「最も美しい方程式」とも言われています。

博士のメモの意味

博士にとって数学は、単なる計算の道具ではありません。

彼の記憶は80分しか持ちませんが、数学の真理は永遠に変わりません。

また、オイラーの公式は「バラバラに見えるものが、実は深く結びついている」ことを示しています。

これは、博士・家政婦・ルートの関係にも通じるものがあるようにも思えます。

記憶が途切れながらも、3人の間には確かな絆が生まれていました。

なので博士は、言葉ではなく数学の美しさを通じて、自分の思いを残したのかもしれないと思いました。

博士と義姉の関係

博士は事故によって記憶が80分しかもたない状態になり、それ以来、義姉が後見人として面倒を見ていました。

彼女は博士の家を管理し、家政婦を雇い、博士の生活を支えていました。

その関係には愛情と支配の両面があったように感じられます。

義姉は博士を「守る」一方で、外の世界との関わりを制限していました。

例えば、家政婦やルートとの関係が深まるのをよく思わず、最後には家政婦を解雇してしまいます。

博士は義姉に特別な感情を持っていたのかもしれないと思われる描写もありました。

しかし、博士は事故で記憶を失い、時間が止まったままになってしまいました。

義姉はその現実を受け入れつつも、博士を囲い込むことで何かを守ろうとしていたのかもしれません。

義姉が守ろうとしたのは、博士の「過去の姿」と「変わらない世界」などでしょうか。


1. 過去の博士の姿

博士は事故のせいで記憶が80分しかもちませんが、それ以前の彼は優秀な数学者だった。

義姉にとって、博士は亡き夫(博士の実兄)とともにあった過去の一部でもあったはずです。

だからこそ、彼女は博士の今の状態を受け入れながらも、「過去の博士」を変えずに保とうとしていた。

博士が新しい人間関係を築くことで、過去の彼が少しずつ薄れていくのを恐れていたのかもしれません。

2. 変わらない世界。

家政婦やルートとの関係が深まるのを阻止するようは行動を取ったのは、博士が新しい変化に触れて傷つくことを避けるためだったのかもしれません。

しかし、結果的にそれは博士を閉じ込めることになってしまいました。


そう考えると博士が残した「オイラーの公式」のメモは、義姉の想定外のものだったと思われます。

数学は永遠ですが、博士は彼なりの方法で「今を生きた」証を残しました。

義姉は博士を守ろうとしましたが、博士自身が本当に求めていたのは、数学を通じた誰かとのつながりだったのかもしれません。

終わり方が好き

博士の最期そのものを描くんじゃなくて、ルートや家政婦、義姉と過ごす場面で終わるというのが、すごく余韻のある構成で好きでした。

博士の記憶は80分しか持ちませんが、数学の美しさや、ルートと過ごした時間の温かさは確かにそこにありました。

あの終わり方だからこそ、博士の愛した数学や、ルートとの絆が、ずっと読者の心にも残るような余韻を生んでるように感じました。

ルートが数学の先生になるという展開も素敵でした。

博士から学んだ数学の美しさやその思いが、ルートを通じて次の世代に受け継がれていく感じがして、博士の存在が永遠に続くような印象を与えてくれます。

博士が教えた数学だけじゃなく、その生き様や考え方が、ルートの中で生き続けているんだなと思うと感動的です。

博士の死後も彼の影響が深く残ることを感じられるので、物語全体が希望に満ちたものとして締めくくられるように思いました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/博士の愛した数式

まとめ

以上、小川洋子さんの「博士の愛した数式」の読書感想でした。

数学の美しさと人間の絆を描いた感動的な物語です。全体的に静かで心が温まる物語なので、じっくり味わいたい人におすすめの作品です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。