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儚い羊たちの祝宴/米澤穂信 -感想- 上品さが生む恐怖。ゾクゾクする短編5編。

読書感想です。今回は米澤穂信さんの「儚い羊たちの祝宴」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:儚い羊たちの祝宴
  • 作者 :米澤穂信
  • 出版社:新潮社(新潮文庫)
  • 頁数 :336P
  • 書影出典:米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』(新潮文庫刊)

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリーが好き
  • ホラーっぽいぞくぞくするような物語が好き
  • コンパクトで読みやすい物語が読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
1
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3
4
5
読み応え
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5
過激表現
1
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4
5

あらすじ

『夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。』

引用元:新潮社

感想

短編5編
短編5編で構成されています。あらすじにもある「バベルの会」という共通項はありますが、それぞれ独立した物語となっています。一冊読む間に細かく節目があると隙間時間で手に取りやすいですよね。短編構成のいいところです。

ミステリー・ホラー
5編ともミステリーになっています。いずれもゾクッとするような内容です。それが5パターンもあるということで、その独特な感覚を満足いくだけ味わえます。短編だから単純な内容なのでは?という心配は不要です。短編だからこそコンパクトに充実感が詰め込まれています。

共感はできない
どの物語も共通して言えるのは登場人物に共感はできないということです。それは欠点ではなくこの作品の魅力の一つです。それぞれ共通した背景を持つ登場人物たち。素敵で奇妙な舞台。独特な世界観が物語の雰囲気を際立たせます。

上品さが生む恐怖
語り口がどの物語も上品です。違和感があるほど上品。その上品な語り口によって物語が展開されていくことでその出来事自体がひと味違って伝わってくるような感覚になります。笑顔で怖いこと言ってる…みたいな感覚に近いでしょうか。それがまたクセになり、その点でも5パターン楽しめるのがうれしいポイントです。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

各章の感想
身内に不幸がありまして
なるほどこういう感じね、と作品の特徴を知らしめてくれました。隙を許されない立場であるため自分で制御できない自分の眠りを恐れる、という犯人の背景に共感はもちろんできませんが世界観の異質さが強く表れています。またそこから読書会に参加できない理由づくりとして「身内に不幸がありまして」に繋がる思考は狂気的過ぎます。あまりの理解できなさに清々しくさえ感じました。こういう毒をこの後も味わっていくんだなと期待させてくれる物語でした。

北の館の罪人
『殺人者は赤い手をしている』がキーワードでした。序盤から黒窓館の逸話や早太郎の怪しさから不気味な雰囲気が続いていましたが、色を作るのが好きという早太郎の話あたりでちょっといい話なのかなと気が緩みました。あまりが早太郎を殺した理由の二つ(六綱への復讐、相続)はわかりやすいですが、三つ目が最も気持ちが込められていそうでかつ理解不能で恐怖でした。

『六綱家の長男として生まれ、その長となることが決まっていながら、「本当にやりたいことがあったから」とその地位をかなぐり捨てた早太郎様。わたしは、そういう甘ったれが、殺したいほどに嫌いなのです。』

山荘秘聞
構成が面白かったですね。越智が飛鶏館来たのに、次のシーンでは来ていないことになっている。屋島が何か隠していることは明らかで、ゆき子が糾弾した通りに想像していました。人肉でなく熊の掌だったこと、越智が生きていたことが驚きでしたが、結局こうなることはわかっていて目的を果たすためには越智を生かしておいた理由がないような気がして、そこだけ腑に落ちませんでした。まあ屋島がこういう状況にした理由自体も理解は当然できないのですが。

玉野五十鈴の誉れ
この話が最も印象的でした。五十鈴の真意はわかりませんが、純香を助けるために『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな』を実行したということでしょうか。太白は可哀想でしかありませんが、純香と両親から見ると希望が見える終わり方で、他の話とは異なった複雑な読後感でした。五十鈴が戻ってきて純香と立場関係なしの友達になれたらと願ってしまいます。

儚い羊たちの晩餐
やっと最後で「バベルの会」が注目されました。大寺鞠絵は自分が夢想家であることを示したかったようですが、物語で終わらせず実現させてしまうことがやはり鞠絵は実際家であることを示しているように思えてしまいます。日記が『わたしは』で終わるところもその後どうなったという想像を掻き立てられますね。バベルの会は崩壊し、大寺家、鞠絵も崩壊してしまったのでしょうか。

『わたしのことを、幻想と現実とを混乱させることさえできないと爪弾きにしたバベルの会。私から滲み出る混乱によって、私の夢想のために、いけにえに捧げられる。アミルスタン羊はパパや叔父さんたちにふさわしい食べ物であり、私もそれを食べることで、バベルの会と大寺家の両方にふさわしい者へと変身する。』

十分に楽しむには知識が足りなかった?
他の小説のタイトルが登場したり聞きなれない単語が登場したりしました。上層階級の博識さが表われているだけで、知っていることを前提にしているわけではないとは思いますが、知っていたらその意味を理解できてより楽しめたのかな?と気になりました。純香が顔を真っ赤にして五十鈴をぶった『金瓶梅』、三日も五十鈴と口を利かなくなったバタイユの『蠱惑の夜』は何となく察していましたが妖艶な小説のようですね。

『アミルスタン羊』については私は元を知りませんでしたが、知らなかったが故に少しずつ何を指しているか察していくことになり、やり取りの真意に気付いたときはぞわっとしました。このように知らないからこその楽しみを得られる部分もあったと思います。ただどこか真意に気付けていない部分があるのではと少しモヤモヤしています。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/儚い羊たちの祝宴

まとめ

以上、米澤穂信さんの「儚い羊たちの祝宴」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。