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恋恋蓮歩の演習/森博嗣 <あらすじ・感想・考察>Vシリーズ第6弾。不完全で優雅な人生の演習

読書感想です。今回は森博嗣さんの「恋恋蓮歩の演習」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:恋恋蓮歩の演習
  • 作者 :森博嗣
  • 出版社:講談社(講談社文庫)
  • 頁数 :456

こんな人におすすめ

 
こよい
  • Vシリーズ前作を読んだ
  • ミステリー小説が好き
  • 特殊な設定が気になる

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『航海中の豪華客船 完全密室から人間消失

世界一周中の豪華客船ヒミコ号に持ち込まれた天才画家・関根朔太(せきねさくた)の自画像を巡る陰謀。仕事のためその客船に乗り込んだ保呂草(ほろくさ)と紫子(むらさきこ)、無賃乗船した紅子と練無(ねりな)は、完全密室たる航海中の船内で男性客の奇妙な消失事件に遭遇する。交錯する謎、ロマンティックな罠、スリリングに深まるVシリーズ長編第6作!

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

Vシリーズ第6弾

Vシリーズ第6作で、豪華客船「ヒミコ号」を舞台に展開されるミステリー小説です。

天才画家・関根朔太の自画像が消失するという謎に始まり、船上での銃声とともに一人の男性が海に落ちるという不可解な事件が物語の軸となっています。

死体の存在しないミステリー

この作品の大きな特徴は、「死体の存在しないミステリー」という点です。

淡い雰囲気で物語は進みますが、明確な謎と紅子たちによる論理的な推理が展開されることで、知的好奇心を刺激されます。

事件の背後にある人間模様や心理的な駆け引きも丁寧に描かれており、単なる謎解き以上の深みを感じます。

登場人物たちの個性と関係性

保呂草や紫子など、登場人物たちの個性と関係性が物語の魅力を支えています。

今回は紫子が主役の一人で、全体的にどこか切なく、人間味を感じるような場面が印象的でした。

事件そのものは派手ではないものの、登場人物の内面に焦点を当てた描写によって、読後には静かな余韻が残ります。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

ここで一呼吸…
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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

『恋恋蓮歩の演習』というタイトル

すごく詩的で不思議な響きがありますよね。分解して考えると、いくつかの意味が浮かび上がってきます。

◆「恋恋」
これは「こいこい」や「れんれん」と読むと、「恋い慕う様子」や「執着」を感じさせます。作中では、紫子の保呂草に対する淡い恋心や、登場人物それぞれが持つ“誰かへの思い”がじんわり描かれていて、そこに通じる言葉だと考えられます。

◆「蓮歩」
「蓮歩(れんぽ)」は、もともと中国の古典で「蓮の花の上を歩くように静かで美しい歩き方」を意味します。そこから転じて、優雅で慎み深い女性の歩き方を表すこともあります。この作品では、紫子が紅子に対して「品のある女になりたい」と思ったり、何かを演じようとして空回りする姿が描かれています。そういう“美しくあろうとする姿勢”を暗示しているのかもしれません。

◆「演習」
これは「本番に備えた練習」という意味ですが、ここでは「人間関係」や「推理の場」における“試み”や“練習”というニュアンスも含まれていそうです。実際、この物語の中で起こる事件は“殺人”でも“完全な消失”でもない、「誰も死なない推理劇」という意味でも“演習的”な構造になっています。

まとめると、
「恋心に揺れながらも、品位を保ちつつ、美しく生きようともがく人たちの、不完全で優雅な人生の演習」
そんな意味が込められているんじゃないかと感じます。

また『A Sea of Deceits』は船の上で紅子、保呂草、練無、紫子が揃って乾杯する場面の紅子のセリフで「疑惑の海のために」とありました。こちらはこの物語を端的に示しているように感じます。

なかなかミステリーらしい展開が起きない

事件が動き出すのがかなり後半でした。前半は大笛と羽村の馴れ初めや紫子を中心とした人間関係の描写がメインで、なかなかミステリーらしい展開にならないことに笑えてしまうほどです。

そこがVシリーズらしさでもあり、事件が起きる前の空気とか、登場人物たちがただ存在している時間がすごく大切にされているように感じます。紅子、保呂草、紫子、練無たちのキャラを知ってるからこそ、その何気ないやりとりや微妙な距離感にも意味を感じられ、そこにニヤッとできるのはシリーズファンの特権です。

ただ、単純にミステリーとして読むと、前半はちょっとじれったく感じるかもしれません。事件が起きても直接的ではなく淡い展開でもあります。しかしその“淡さ”が、逆に後半で真相が見えてくるとじんわり効いてきます。結局、「事件は人の中にある」という、らしいテーマが沁みてくるような印象です。

綺麗に片付く

解決編の導入となる紅子の推理も腑に落ちる感じでしたが、そこにもあえて隠されていることがあり…と終盤に次々と真相が明らかになっていくのは爽快でした。

消えた人物(羽村怜人)=保呂草なのは何となく想像はしていましたが、最後にすべてが繋がって、結局誰も死なずに、また自画像もあるべき場所に帰りと、複雑そうに見えた事件が綺麗に片付いたのは圧巻でした。

ミステリーは解決した後に“後味”が残ることが多いけど、この作品は後味が澄んでるというか、綺麗に水面が静かになっていくような印象があり、不思議な読後感でした。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/恋恋蓮歩の演習

まとめ

以上、森博嗣さんの「恋恋蓮歩の演習」の読書感想でした。

ミステリーとしての完成度だけでなく、登場人物たちの繊細な感情が丁寧に描かれた一冊。Vシリーズを読み進めてきたからこそ味わえる深みがあり、シリーズファンには特におすすめの作品です。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。