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アルプス席の母/早見和真 <あらすじ・感想・考察> 高校球児の息子を持つ母のリアルな奮闘と葛藤

読書感想です。今回は早見和真さんの「アルプス席の母」です。

記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:アルプス席の母
  • 作者 :早見和真
  • 出版社:小学館
  • 頁数 :354P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • 子どもを持つ親(特に母親)

    子育てや進路、部活動をめぐる親の気持ちに共感できる場面が多いかと思います。

  • 部活に青春をかけた経験がある
    自分自身や仲間の親の存在を思い出すような場面も多く、スタンドからの視線にジーンときます。

  • 「家族小説」が好き
    野球はあくまで背景で、メインは母と息子の関係性。親子の距離感や心の変化を丁寧に描く作風が好きなら、すごく刺さると思います。

 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て、息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。
不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?
補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌!
かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する。

引用元:小学館

感想

高校野球が舞台

奈々子は看護師として働きながら、ひとり息子・航太郎を育ててきました。彼が進学したのは、大阪にある、まだ甲子園に一度も出場したことのない高校の野球部。

夢に向かって頑張る息子を、「アルプス席」から見守る母としての日々が始まります。

遠征費、寄付金、ケガ、そして仲間との衝突――華やかな高校野球の裏側で、保護者として、そして“母親”として直面する現実。

スタンドからの応援だけじゃ済まない、リアルな母の奮闘と葛藤が丁寧に描かれる物語です。

特徴的な視点

高校野球という熱い舞台を背景にしつつ、主人公はあくまで“母”です。

試合そのものよりも、その周辺で起きる出来事や人間関係に重きが置かれており、野球に詳しくなくてもすっと入り込めます。

むしろ「野球を知らない親の目線」で読むからこそ、より深く共感できるかもしれません。

リアルな背景

読み始めたときは、「高校野球に燃える息子を見守る母の感動話かな」と思っていました。

しかし実際には、それだけではありませんでした。

現実はもっと泥臭くて、理不尽で、どうにもならないことも多く、それでも誰かを信じて前に進むしかない。

そういう人生の縮図が、この一冊には詰まっています。


以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

新鮮な視点

高校野球がテーマの物語はグラウンドの中からの視点が多いイメージです。しかし本作は、スタンドの一番上の“アルプス席”から、母親が見守る視点で描かれてるっていうのが新鮮です。

しかもただ「応援してる母」ではなく、練習後に息子が無言で帰ってくるのを心配したり、父母会で理不尽なことに腹を立てたり、寄付金の扱いに疑問を感じたり。

そういう「母親としての現実」が丁寧に描かれているので、読んでいて「こういうドラマって今までなかったな」と思いました。

奈々子が看護師として働く姿も含めて、“親であり、個である”視点っていうのが印象的です。息子のプレーがどうだったかよりも、母がその瞬間をどう受け止めたかに焦点が当たっており、野球ものなのに人間ドラマとしてぐっときます。

この作品のタイトル『アルプス席の母』は、まさにこの物語の本質を表していると思います。

奈々子はただの応援団ではありません。学校や監督、父母会とぶつかりながらも、「息子のために」だけじゃなく「自分自身のためにも」声を上げていました。その姿は、親であることの責任と同時に、個としての尊厳を描いているように感じます。 

この作品を読みながら、自分がもし親だったら、と考える場面がたくさんありました。

「応援すること」「見守ること」「口を出さないこと」「守ること」――それぞれがバランスの中で揺れ動いて、どれが正解かわかりません。しかし、たしかに「愛しているからこそ悩む」っていう母の姿には、素直に心を打たれました。

この視点だからこその感動

“母の視点”で描かれるからこそ、じんわりくる感動がいくつもありました。

たとえば、航太郎のファンだという子出会う場面がありました。

普通なら認められて嬉しいという高校生男子の目線で描かれがちですが、ここでは母親が驚きや誇らしさなどという様々な気持ちがにじんできます。

また、チームメイトから慕われていることを母が後からだったり遠目に知るという形で描かれるのも効いていました。本人は語らず、ドヤ顔もしません。しかし、誰かがちゃんと見ていて母の耳に届く、という構造がなんとも言えず温かいです。

この「一歩引いた立場から見守る感動」って、本当に独特で、まさに“母親の物語”ならではの味わいだと思いました。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/アルプス席の母

まとめ

以上、早見和真さんの「アルプス席の母」の読書感想でした。

未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。