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あなたが消えた夜に/中村文則 -感想- 純文学×警察小説。純愛×狂気。

読書感想です。今回は中村文則さんの「あなたが消えた夜に」です。
記事前半はネタバレは含みません。「続きを読む」を押さない限りネタバレ内容は見えませんので未読の方も安心してお読みください。

作品情報

  • 作品名:あなたが消えた夜に
  • 作者 :中村文則
  • 出版社:毎日新聞出版(毎日文庫)
  • 頁数 :504P

こんな人におすすめ

 
こよい
  • ミステリー、警察小説が読みたい
  • 人間の暗い内面が見える作品が好き
  • 純文学的な小説が読みたい
 

特徴グラフ

※私個人の見方・感想です。

話の明るさ
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読み応え
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過激表現
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あらすじ

『連続通り魔殺人事件の容疑者”コートの男”を追う所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋。しかし、それはさらなる悲劇の序章に過ぎなかった。世界の片隅で求め合う男と女。極限の愛が狂気に変わる時、「人間」を超えた殺人者の終わりなき〈復讐〉が始まる――。神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。〈純文学×警察小説〉かつてない衝撃!圧倒的人間ドラマ!』

引用元:毎日新聞出版

感想

純文学×警察小説
今作は警察小説です。そこに中村文則さんの純文学らしさが織り交ぜられ、独特な雰囲気を持つ作品となっています。事件の真相以上に、関係する人間の内面を突き詰めたような内容となっており、純文学的な面が比重としては大きくなっています。

興味を惹く事件構造、魅力的な登場人物
とはいえミステリー部分もとても面白い構造になっています。特に物語の前半、謎が謎を呼ぶような事件の広がりにはとても興味を惹かれます。また、主役である男女の刑事コンビがそれぞれ個性的で魅力的です。2人の掛け合いには作品全体の空気感から逸脱したユーモアが見えたりして、単調にさせない良い配置でした。しかしそんな2人も密かに抱えた内面があり、事件だけでなくそんな面が深堀されていくのもこの作品の特徴です。

無意識
印象的なのは、登場人物たちの心の闇の深さです。登場人物たちはそれぞれに抱えている深い傷や過去があり、事件の背景として物語に暗い影を落としています。それらが複雑に入り混じり、物語全体を覆う重苦しい雰囲気を作り出しています。また、現代社会における人間関係の希薄さや、孤独感がテーマになっていると感じました。誰もが自分だけの世界に閉じこもり、他者とのつながりを希求しながらも、それを恐れているような様子が描かれています。

直に共感できるという感じではないかもしれませんが、気付きを得たり、自分自身を見つめ直すきっかけとなる部分もありました。ボリュームもあり、なかなか精神的にタフな読書体験であった印象ですが、相応の充実感が得られる小説だったと私は思います。

以下、内容に触れた感想を記載しますので、開く際はその点ご了承ください。

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感想(ネタバレ有り)

続きを読む ※ネタバレ注意

前半の警察小説パートが面白い
第一部の中盤まで、事件の謎が深まっていく様子にかなり引き込まれて、複雑になった状態がどう解明されるのかと期待が高まりワクワクしました。中島と小橋の軽妙なやり取りにクスッと笑えたり、四件目の加害者高柳を捕まえる場面などスリルもあり、警察小説としてかなり楽しく読めていました。そこからは中村文則さんらしい雰囲気が爆発しそれも魅力的ではありますが、前半の感じで最後まで続いても良かったなと思ってしまう気持ちもあります。特に中島と小橋はもっと活かしてほしいと思うほど魅力的なコンビでした。

各部の冒頭に関係者の概要がまとめて書いてあったのは、読み進める上でも振り返る上でも頭の整理にかなり役立ちました。こういうページがある作品を私はあまり見たことがない気がして、親切だなぁと感心しました。

後半はまるで別作品
後半は語り手が犯人となり真相が明らかになっていきます。誰が、何故、どのように、というのがすべて明らかになるわけですが、中心として描かれているのは”何故”という部分で、犯人や関係者が抱える闇が丁寧に描かれています。

そこまで警察小説という顔で、誰が、どのように、という部分に注目して話が進んできて、私としてもそこが気になるポイントになっていたのですが、その点は割とあっさりと真相が描かれて、ミステリーとして読む上では少し拍子抜けした感覚があります。

この作品は単なるミステリーとして作られているものではなく、暗い空間を覗き、触れていくような感覚、どう感じるか問われているような感覚、そういった純文学的な面を強く押し出している作品のように感じます。なので気持ちを切り替えながら読む必要がありそうで、特に語り手が切り替わった初めのうちはなかなか馴染めない印象があったように思います。

細かな人物描写の良し悪し
事件に関わる人物たちはそれぞれ闇を抱えており、それが丁寧に描かれていることでこの作品の独特な雰囲気を作り出しているように思いますが、これもこの作品をミステリーとして読んでいると冗長に感じられてしまうかもしれません。例えば、前半にもちらちら出ていた中島の過去、火事の真相の件は、通り魔事件の真相解明に関係があるのかと感じてしまう要素でしたが、結局は通り魔事件とは関係なかったと知るとあの話は何だったんだ?と思ってしまいます。

ただ単にミステリーとして見るとそうなるというだけで、そもそも今作はただのミステリー作品ではなく、随所で様々な感覚に触れられることも大きな魅力であって、中島の過去の描写も犯人の心情を映していたりなど、物語に深みを与える要素の一つであり作品全体の雰囲気を作り出す重要な意味を持っているように思います。

吉高は何故道半ばで死んだのか
椎名めぐみの関係者一掃作戦の道半ばで科原さゆりの目の前で吉高は自殺?したわけですが、何故だったのかは死んでしまったので語られていません。想像ですが、吉高はそこまでに数人殺しているわけですが、躊躇するシーンが繰り返し描かれており、元々人殺しを行える精神の持ち主ではないように見えます。科原の前に行くまでにもう精神は擦り切れてしまい、最も殺してはならない科原を殺すという壁を越えられず、そこでそこまでの罪の重みに潰されてしまった、という感じかなと思います。

あなたが消えた夜に
タイトルが物語の重要な転換期を表していました。「おおっ、ここできた」と気持ちが高まりました。しかも二回。タイトル回収とはちょっと違うかもしれませんが、タイトルが作中に絡んでくるとワクワクしますね。

3行でネタバレ(開く際は要注意!!!)

続きを読む ※ネタバレ注意
連続通り魔殺人事件が起きる。調査を進めるうちに椎名めぐみがキーパーソンである判明。
椎名めぐみは精神科医により精神を狂わされ、10人の男と関係を持った末に自殺。
椎名めぐみと交際していた吉高が復讐のために椎名めぐみ関係者全員を殺害する計画を立て、通り魔事件を起こす。計画実行途中で吉高は自殺。

他の読者の感想

こちらをご覧ください。
※ネタバレ感想も含まれますので見る際はご注意ください。

読書メーター/あなたが消えた夜に

まとめ

以上、中村文則さんの「あなたが消えた夜に」の読書感想でした。
未読の方は是非手に取ってみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。